ブログブログ by 友利昴

自分に関する記事を書いたものです。

商標から見るタブー表現~「へんな商標?」ボツネタ集2~

日本をはじめ各国の商標法では「公序良俗に反する商標は登録できない」ことが明示されています。典型的なのが「差別語」「差別的表現」の類。特定の人種や思想などに対する蔑称について商標として使用することに、国が独占権を認めてお墨付きを与えることなんかとんでもないのです。

 

 しかし、ある表現が差別的かどうかという判断基準は、時代によって結構異なります。日本においては、往々にして昔の方が差別表現には無頓着で、80~90年代以降、こうした表現は厳しく排除されるようになりました。これは成熟した先進国なら当たり前の現象です。

 

 人権意識が未成熟だった昔の商標には、今の感覚からするとずいぶんとんでもない―「へんな商標」と言えるものもあり、中には堂々と国が権利を与えて登録商標になっているものも少なくありませんでした。しかし、それを本に取り上げて、あれこれとあげつらうのは、それこそ人権へ無配慮と言われかねない。

 

 書き手としては差別表現が面白いと考えているわけではまったくなく、それを許容して、あまつさえ商標権まで与えてしまっていた時代というものが興味深いということなんだけど、「へんな商標?」という構成、括りの中でそれを誤解なく伝える自信がなく、断念しました。いつか何かの形で発表できればいいんだけど、もう少し真面目な文脈で発表すべきことでしょうね。

 

  ちょっと話はズレますが、80年代末期、「黒人差別表現問題」が騒がれて、絵本の「ちびくろさんぼ」をはじめ、漫画やマスコットから、いわゆるステレオタイプな黒人表現が一気に消え去ったことがありました。その当時、企業の商標にも「黒人」をあしらったものがいくつかありました。

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上のカルピスの「黒人マーク」、タカラの「だっこちゃんマーク」はある世代以上には知られた商標だと思います。これらの商標は、この黒人差別論争の中で自主的に使用が中止され、別の商標に差し替えられていったのです。

  しかし、企業がハウスマーク(会社の冠として掲げる商標)を変更するって、相当大変なことなんですよ。パッケージからチラシから社章から看板から何もかも差し替えなきゃならないから。それを一気に変えさせてしまう、社会の見えない圧力っていうのは、なんだかすごいなぁと思います。ましてや、あの図形が黒人差別にあたるのかどうか、結構微妙なところもあったからなおさらです。

  ちなみにカルピスは、騒動が落ち着いた1996年に、黒人マークを再び商標出願しています。特許庁は、当初「黒人への人種的偏見と差別を助長する」として登録を拒絶したものの、カルピスはこの査定に不服を申し立てました。そして同社が、いかにこのマークが健康的で、明るい雰囲気を持った、芸術的にも評価されているマークであるかと切々と訴えた結果、最終的には「公序良俗を害するおそれがあるとは言えない」との認定を受け、商標登録を勝ち得ています。ただ、未だに再度使用するところにまでは踏み切っていないみたい。

  一方、タカラはタカラで、「だっこちゃん」のデザインをリニューアルして何度か再発売していますが、そのデザインはまったく黒人でもなんでもない、カラフルな妖精になっています。差別的でなくとも、黒人表現を用いた商標自体が使えなくなっている今の商業界。う~ん。腫れ物に触らないのが一番無難なんだけど、難しい問題ですね。

  ちなみに、それ公序良俗に反してるんじゃ…?という登録商標は差別表現以外にもたくさんあります。ヒロポン覚せい剤だよ!)、「メタボニート(ただの悪口かよ!)、「セフレ」(彼女だと思ってたのにセフレ?)などなど。これらに関する裏話、出願背景についての考察アレコレは、本書に書いたので、よかったら読んでみてくださいね。

へんな商標?
友利昴 和田ラヂヲ
4827109826