ブログブログ by 友利昴

自分に関する記事を書いたものです。

アンブッシュ・マーケティングとは何か? 本当に違法なのか?

アンブッシュ・マーケティングという言葉をご存じだろうか。Ambushとは英語で「待ち伏せ」という意味である。ここから転じて、マーケティング用語における「アンブッシュ」とは、あるブランドが広告・広報活動を活発に展開するのを待ち伏せし、あたかもそのブランドと何らかの結びつきがあるかのようにふるまうマーケティング手法のことをいう。

先日、このアンブッシュ・マーケティングの勉強会に行ってきたのだが面白かった。

アンブッシュ・マーケティングの代表例のひとつとして、東京オリンピック開催に際し「オリンピック開催おめでとうセール」や「ニッポンがんばれキャンペーン」等を勝手に行う事が該当すると言われており、IOCJOCは、こうした行為を規制する姿勢を見せている。

だが、こうした行為は、現行の日本法では、商標法違反等に該当する一部のケースを除いては適法なのだ。たとえIOCらからクレームがあったとしても、それは単にクレーム(言いがかり)でしかない(クレームは根拠がなくても誰でもできる)

で、私なんかは、IOCJOCの「オリンピックを少しでも匂わせるようなマーケティングはいかなるものも許さない」というスタンスには反対だったのだ。

たとえブランドの出所は特定の企業や団体だったとしても、文化や地域と強いつながりを持つ類のもの(オリンピック、横浜中華街、スカイツリー等)は、公共財として受容される側面を持つ。

「オリンピックおめでとうセール」は、多くの場合、趣旨としても受容のされ方としても、ブランドとしてのオリンピックに便乗したマーケティングではなく、現象・文化・公共財としてのオリンピックを採用したマーケティングであろう。意味としては、12月25日に「クリスマスセール」と銘打つのと変わらない。それをキリスト教への便乗だとは言わんでしょう? それを無理やり禁止させようとするならば、国民が文化を享受することに対する過度な制約になってしまうと思うのだ(まして法律の枠組みを超えて規制しようとするならなおさら)。

以上、これが結論!……と思っていたのだが、勉強会でIOC側の論理に触れて、この問題に対する向き合い方はもっと深く考えないといけないなと思ったのだ。

IOCJOCや、彼らに高額のスポンサー料を払っているオフィシャルスポンサーは、そもそも「オリンピック」に公共財の側面があるとは思っていないし、公共財と思われることを良しとしていない。クリスマス? そんなものと一緒にするな! 一民間機関に属する私有財産だ!

これを前提にすれば、独占を目論む気持ちは分かる。一般的な企業のブランド保護戦略としては主流の考え方だ。もっと身近な例でいえば、例えば自分が描いた絵を、他人に無断でアイコンに使われるのは嫌だとか、自分が投稿したネタをパクツイされるのが嫌だとか、そういうシチュエーションとも近い。

通常、こうした知的財産の無断使用に対しては、法律を根拠に対応するのが一般的だが、残念ながら法律にも限界があり、法律によって権利者の「独占欲」が完全に満たされるとは限らない。そこで、法に頼るだけでなく、倫理的に、情緒的に、時に政治的な手段によって問題解決を図ろうという手段がしばしば採られる。

それを最もパワフルに行ってきたのがIOCなのである。なんといっても「オリンピック」だ。世界各国の政府が開催地の称号を欲しがっている。それと引き換えに、開催国の国民にマイルールを受け入れさせることなど難しいことではない。現に多くの国が、オリンピック招致・開催に前後して、「オリンピック特別法」とも呼ばれる法律を制定し、従来の知的財産法では規制できないアンブッシュ・マーケティングを、法的に制限できる体制を整えている。

そこまでやるか普通。というか、そこまでやれるのはIOCぐらいでしょう。まさにブランドの巨人である。

これを踏まえて、JOCのWEBサイト「オリンピックの知的財産権」を見てみると、またすごい。「アンブッシュ・マーケティング」という概念を、悪い印象と伴って広めようとするこのイメージ戦略。匠の領域のレッテル貼りですよこれは。

特にいいなと思ったのが、まず冒頭三行目の日本国政府としても…オリンピックイメージの保護を誓約しています」の一文。三行目にして思いっきり権威主義

そして最後の一文JOCマーケティングに協賛しているふりは、許されません!」の「許されません!」。いや、「(JOCは)許しません」でしょ意味としては。それを、敢えて受動態にすることで、「この国では許されません、世間では許されません」的な、とっくに社会的コンセンサスを得ているかのようなニュアンスを醸し出すことに成功している。舌を巻かざるを得ない。勉強になるなぁ本当に。

こういう強豪相手に、「オリンピック記念セール」をやりたい市井の人々はどう対峙すべきか?「だって、オリンピックはみんなのものでしょ!」という単純な感情論では到底勝てないことだけは確かなのである。

⇒⇒2018年11月追記

この出来事をきっかけにしてアンブッシュ・マーケティングに関する研究と論考を重ね、『オリンピックVS便乗商法―まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』という本にまとめました。構想4年半!!その紹介は以下の記事をご参照。

subarutomori.hatenablog.com

もし、みんながブッシュマンだったら
菅原 和孝
4834016250

ブッシュマンとして生きる―原野で考えることばと身体 (中公新書)
菅原 和孝
4121017315

ブッシュマン、永遠(とわ)に。―変容を迫られるアフリカの狩猟採集民
田中 二郎
4812208491

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