ブログブログ by 友利昴

自分に関する記事を書いたものです。

『オリンピックVS便乗商法―まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』プロダクション・ノート

『オリンピックVS便乗商法―まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』は、構想4年半、執筆期間1年半、と、これまでの著書の中では最も時間をかけました。章立ては以下の通りです。

第1章:便乗商法(アンブッシュ・マーケティング)とは何か
第2章:なぜアンブッシュ・マーケティングを規制するのか
第3章:知的財産権でオリンピック資産は独占できるか
第4章:法を超えるアンブッシュ・マーケティング規制
第5章:アンブッシュ・マーケティング規制の最終手段
第6章:1964年から学ぶ、アンブッシュ・マーケティングとの向き合い方

文量や内容の濃さは、主観的にもおそらく客観的にも一番です。その執筆経緯について、以下記録しておこうと思います。

 

そもそものきっかけは、2014年3月に、当時職場が加盟していた業界団体の主催する、オリンピックとアンブッシュ・マーケティングに関する勉強会に参加したことでした。多分「アンブッシュ・マーケティング」という言葉自体、この時初めて知ったんじゃないかと思います。
その会で、IOCがアンブッシュ・マーケティングを規制し、「オリンピック」にまつわるあらゆる表現や商業利用を自らの支配下に置くために、法律や社会通念の枠組みを大きく飛び越えた規制戦略を大胆に採用、推進していることを学んで、僕は目からウロコが落ちる思いでした。
印象に残ったのは以下の点です。

①アンブッシュ・マーケティングは、一般的な法律に照らせば必ずしも違法ではないが、IOCは「不正な使用」と位置付けており、規制スタンスを採っている。
IOCは民間機関にもかかわらず、立候補都市に対して、アンブッシュ・マーケティングを規制するための法律を制定することを要求し、オリンピック招致を実現したい都市や国家がこの条件を飲んでしまう例が多い。

①の「違法じゃないけど規制する」というのは、当時の僕の発想にはなかったものです。法律をかなり拡大解釈して主張することで、他人の行動を制限し、自らの利益拡張に誘導する姿勢は、ある意味、水野祐弁護士らの提唱するリーガル・デザイン的であり、この発想自体は、今は僕も大事にしています。しかしこれを特定権利者の利益のために最大活用することは、社会全体の利益とのバランスを考えると抑制的であるべきですし、限度があるだろうという話です。

②は、民間企業もロビー活動等で立法に影響力を行使することはありますが、IOCのそれは、実質的にはオリンピック開催の交換条件となっているのが普通のロビー活動とは一線を画する点です。「オリンピックに来てほしければ、オレ様のための法律をつくれ」というわけで、常識に外れ過ぎた要求がゆえに虚を突かれ、思わず立法してしまった各国政府の気持ちは分からなくもない。思わず立法ってなんなんだ。
とにかく、そんなこんなの衝撃を受けて(感想は当時ブログにも書いている、その勉強会の帰り道には「これは僕も研究して一冊にまとめよう」と決めてしまいました(ただ、今気づきましたが、本書のために集めた資料の印刷日付はこの勉強会の少し前のものもあって、オリンピックで何か書こうという発想はもともと持ってたんだろうと思いますね。よく覚えていませんが…)

 

この勉強会の講師は、後に『アンブッシュ・マーケティング規制法―著名商標の顧客誘引力を利用する行為の規制』(創耕舎)を上梓される、国内のアンブッシュ・マーケティング研究の第一人者と言ってよいと思いますが足立勝さんで、僕としては足立さんの先行研究とは違う切り口で挑みたいという思いがありました。足立さんは、特に諸外国のアンブッシュ・マーケティング規制法と、そのベースとなり得る各国の知的財産権法、競争法について研究を重ねられていたので、僕は「アンブッシュ・マーケティング規制と社会との関わり合い」という観点で取り組もうと考えました。

最初に気になったのは、「いったいIOCはいつから法律の枠組みを超えて『オリンピックの独占』を目論むようになったのか」ということで、その疑問を整理すべく、歴史をさかのぼる作業から取り掛かりました。その結果、近代オリンピックの歴史のかなり初期段階、遅くとも1910年代からそうしたアプローチが散発的に採られ始め、1950年代には各国へ立法化を促す取り組みも開始されていたことが分かりました。そうしたムーブメントを、当時社会がどのように受け止めて来たかについては、1964年東京オリンピック時の事象を中心に、第6章でまとめています。
アンブッシュ・マーケティング規制が体系的に運用され始めたのは1990年前後からですが、1960年代の規制手法との共通点、相違点に注目するとなかなか面白い発見があります。アンブッシュ・マーケティング規制戦術の変遷や、それに対する社会の反応については、なるべく事例を収集して、それをできる限り体系化してまとめたつもりです。これは第1章と第4章を中心に、全体的に散りばめています。

 

で、この資料収集と事例整理に時間がかかった!2014年の春頃から始めて、気が付けば2年以上経ってしまった。この間、別の単行本の依頼があり、プライベートでも慌ただしかったのもありましたが、いつの間にかリオデジャネイロオリンピックが始まってしまって、「あ、そろそろ書かないと東京オリンピックになってしまう」と思いまして、リオ大会を横目に執筆に着手したような覚えがあります。
それで、翌年の夏くらいには一通り書き終えて、ほぼ脱稿状態となり、その頃から並行して版元を探すべく、伝手をたどって相談したり、伝手がなくても企画書を送ったりしてました。通常、漫画や投稿ものは別として、原稿を書き終えてから企画を持ち込むということはあんまりないと思いますが、「このネタだったらすぐ出版は決まるだろう」という謎の確信があったので、迷いなく先に約18万字も書いてしまいました……。
ところが、意外と版元が決まらなくて苦労しました。最初「これは新書がいいんじゃないか」という意見を複数もらったんです。テーマ的には、時事っぽくもあるし確かにそうだなと思ったし、実際興味を示して下さった新書の編集者もいましたが、その時点で18万字ありましたからね。新書だとだいぶ削らないといけないな~と思いつつ、結局、最終的になかなか企画も通らなくて、「出版不況かよ!」と思いましたね。
それで、新書じゃないとしたら、人文・社会学系路線の出版社の単行本じゃないかと思い、いろいろあって作品社さんで決まったのが、確か2018年の2~3月くらいでした。ちょうど平昌オリンピックの壮行会規制問題も世間を賑わせていましたね。この間は、執筆も終わっていたのである意味ペンディング状態でぼーっとしてました。
それで、その企画が通る前後くらいから編集者と構成を見直して、書き直しに4、5ヶ月くらいかけて、7月下旬に正式脱稿。その後手直し、校正を経て、10月末に責了となったのが『オリンピックVS便乗商法―まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』です!

ちなみにタイトルは、当初、僕が原稿につけていたのは『オリンピックは誰のものか』でした。それが、編集者からの「ストレートな方がいいんじゃないか」という助言で『オリンピックとアンブッシュ・マーケティングとなり、「アンブッシュ・マーケティング」は一般には分かりにくいのではないかということで『便乗商法VSオリンピック』になり、ひっくり返して『オリンピックVS便乗商法』となりました。
サブタイトルは、色々考えたんですけど、「偽装知財に忖度する社会への警鐘」という案があって、「偽装知財」というのはよく分かりにくいですねということで、「知的財産に忖度する社会への警鐘」となって、「いや、知的財産に忖度(配慮)するのは正しいじゃないですか」ということで、「まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘」になった次第です!疲れた~。


オリンピックVS便乗商法: まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘