ブログブログ by 友利昴

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それでも東京オリンピックが中止や延期にならない理由

新型コロナウィルス(COVID-19)流行の影響により、7年前から皆が楽しみにしていた(?)東京オリンピックパラリンピックの開催に不穏な空気が流れている。

2月26日には、IOC委員のディック・パウンドが、AP通信などの取材に応じ、秋への延期や代替開催地での開催は否定したが、1年後の2021年夏の開催可能性に言及

一方、橋本聖子五輪担当大臣は年内後半に延期する可能性に言及し、これは世界でも報じられた。かと思えば、安倍首相は「延期や中止を前提とした影響などの検討は行っていない」とコメント。大会組織委員会内では、理事の高橋治之が「2年後の夏(に延期)が一番可能性がある」と、ウォールストリートジャーナル朝日新聞で発言したところ、速攻で森喜朗会長から「延期は考えていない」と怒られていた。てんやわんやである。各方面の論客たちも、延期や中止の可能性に言及している。

www.bbc.com

しかし、現段階では、東京オリンピックは予定通り開催されるだろう。その理由はシンプルだ。

トーマス・バッハIOC会長が「やる」と言っているからである。

よく誤解されるが、IOCという組織は、国連組織や国家組織からは独立しているスイスの民間組織である。社会全体の利益のために存在しているのではなく、オリンピック事業を成功させ、継続させるために存在する組織である。そして、閉鎖的でトップダウンの性質が強い組織だ。民間会社で「社長が『やれ』と言っている」状況と同じだと言えばお分かりになるだろうか。

もちろん、バッハも子どもではないので、ある程度の安全性や、国際的イベントの主催者としての社会的責任を負えるかどうかを検討したうえでやると言っているはずである。「やる」と言いつつ、WHOとは緊密に連携し、その助言に耳を傾けていることが報じられている。

その中で、IOCとWHOが、無観客での五輪開催の可能性について議論したという報道があった。これは、シナリオとしてはあり得る話だ。

www.nytimes.com

五輪ビジネスにおいて、実はチケット収入の割合は低く、わずかに5%程度である。これが飛ぶくらいだったら彼らは受け入れる可能性がある。収入の大部分は放送権料とスポンサー料であり、放送局やスポンサーの信用を失うことを彼らは何よりも恐れている。中止や延期となれば、少なくとも放送局は「何のために高額の放送権料を支払ったんだ」という話になるが、無観客でも競技が行われれば予定通り中継はできる。

観客が入らなければスタジアムに広告を出すスポンサーが不利益を被るという意見もあるかもしれないが、オリンピックはもともとスタジアムには広告を掲出させないポリシーがあるので、これはほとんど関係がない。

放送権者やスポンサーに顔向けすることを優先に考えれば、無観客オリンピックは合理的なのである。

ただ、その場合、一般の日本人(あるいは東京人?)にとっては日本(東京)でやる意味が皆無になってしまう。だって、テレビでしか見られないんだったら、どこの国でやろうが一緒だろうが。やっとチケットを入手して楽しみにしていた人々が悲しむのはもちろん、訪日外国人がもたらす経済効果を期待していた政治家や自治体や事業者も唇を噛むだろう。

しかしIOCは、開催国・日本の都合など考えない。日本がいくら不利益を被ろうが何も関係がない立場なのである。しかし、放送権者とスポンサーの不利益になることだけは絶対にしない。そういうヤツが開催しているのがオリンピックなのである。信用してはいけない。IOCの言動は常に正しいと勘違いしている人は多いが、それは間違いである。

fiverings

日本にとって、さらに厳しいシナリオもある。今、政府全体としてはオリンピックの予定通りの開催を目指しているし、コロナウィルス騒動収束に向けて様々な策を講じている。もし、日本が感染拡大の防止に成功し、5月あたりに感染者増加が鈍化するなど騒動が収束に向かったとしたら、IOCは迷うことなく予定通りの開催にGOサインを出すだろう。

しかし、日本は収束したとしても、その時外国はどうだろうか。ヨーロッパは収束しているだろうか。アメリカで感染が拡大していないだろうか。パンデミックが起こってはいないだろうか。もし、海外の一部の地域でもそのような情勢になったとしたら、それでも、日本の政治家や我々は、予定通り、世界に向けて「東京オリンピックへようこそ」と言えるのだろうか? 今だって中国と韓国からの入国者に2週間の待機要請をしているじゃないか。世界中から選手、関係者、観客が押し寄せる事態を、政府として受け入れられるのか。日本国民は受け入れられるのか。2週間待機させたらオリンピック終わるぞ!

そして、日本サイドがいくら「それは困る。そういう状況ならやっぱり延期で」と言ったとしても、IOCがそれを受け入れる可能性は極めて低い。繰り返すが、IOCは開催国日本の利益・不利益には関心がない。何よりも放送権者とスポンサーの利益を優先する組織なのである。

ちなみに、開催都市である東京都、実行委員である大会組織委員会は、IOCと締結した開催都市契約によって、東京オリンピックを確実に実施する義務を負っている(第16条)。大会の中止を決定する権利を有するのは、IOCのみである(第66条)。そういう契約を結ばされているのである。この契約は、立候補段階であらかじめ提示されており、開催都市に選ばれるためには、この契約を無修正で締結することが条件になっているのである。

オリンピックを招致するのは別にいい。でも、こんなにもIOCにナメられていいのか。と、言いたいですね。

友利昴「オリンピックVS便乗商法 まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘」(作品社)
友利昴 オリンピックVS便乗商法

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