ブログブログ by 友利昴

自分に関する記事を書いたものです。

東京オリンピックを延期・中止にする方法とは?

コロナウィルス騒動の中、前回の記事以降も、東京オリンピックの開催の是非について、毎日のように関係者の発言が相次いでいる。インパクトがあったのは米国トランプ大統領「1年延期した方がいいんじゃないか」発言か。JOC理事の山口香延期すべきと主張した。

しかし、やはりと言うべきか、この男は揺るがない。トーマス・バッハIOC会長である。現時点で通常開催以外の決定を下す必要はないとする声明を、IOCウェブサイトで発表している。

www.olympic.org

一方「WHOの助言に従う」「違うシナリオも検討している」との発言も報じられ、延期容認と受け取るむきもあるが、彼の発言全体からすれば、すべて傍論であり、「予定通りが前提だが……」が常に頭にくっついていることを忘れてはならない。

前回述べた通り、バッハがやると言っている以上はやる、それがIOCであり、オリンピックなのである。私としては、この事態を通して、IOCの独善性がもっと日の目を見ればいいと思っているので強調するが、「それが今のオリンピック」なのである。ありがたがっている場合か。

やや意外だったのが、安倍晋三総理が「完全な形で実現したい(延期、無観客や参加国を減らすことなく)」と断言したことだ。民間組織であるIOCからいかに独立性を保てるかは政治手腕の見せ所だと思うが、IOCの方針に同調する形を採ったのだ。

日本も五輪が予定通り実現できなければ経済的な影響は大きいから、IOCと一蓮托生という側面はあるが、東京五輪がきっかけで、社会不安やまして感染が広まればそれも日本にとっての大きな不利益だ。IOCに対し「やるんなら場所は貸してやるが、日本に不利益を及ぼし得る状況だったら、直前でも受け入れないからなテメー」くらいの檄を飛ばし、牽制してもよかったはずだ。

それにしても、開催国の首相も止めようとしないIOCの強硬姿勢。これにブレーキをかけられる奴はいないのか!?ということを今日は考えてみたい。

 

 

1.もし選手派遣のボイコットが起こったら

まず考えられるのは、選手派遣のボイコットである。オリンピックに各国の選手を派遣しているのは、各国の国内オリンピック委員会NOC、日本でいえばJOCである。多くのNOCもまた、公機関から独立した民間組(途上国のNOCは政府組織の一機関であることもある)であり、東京大会に選手を派遣するかどうかはNOCの一存だ。そしてNOCIOCの下部組織であるから、IOCが選手を出せといえば、出すのが筋だ。

しかし、既に各国政府が感染拡大防止を目的とした渡航禁止命令や要請を出していることからも分かるように、選手や関係者といえども、自国民の出入国の是非は、政治判断に委ねられている部分が大きい。各政府からNOCに対して、選手派遣見合わせの要請が出る可能性はある。

例えば「感染が収束しない日本には選手を派遣しない」「感染が収束しない国の選手が参加するなら選手を派遣しない」と決定する国が出たらどうなるか。それが影響力のある大国だったらどうなるか。選手が来なければオリンピックは始まらない。大国の選手が出ないならば、オリンピックのコンテンツとしての価値が凋落するのは避けられない。IOCが尻尾を振る放送権者としても歓迎しまい。延期を促す圧力として機能する可能性はある。

現在確認される関係者の声としては、スペインオリンピック委員会会長のアレハンドロ・ブロンコが、開催延期が好ましいと述べていることが報道されている。一方、オーストラリアオリンピック委員会のトップであるマット・キャロルは、予定通り東京に代表選手を派遣すると表明している。あとは、各国の渡航禁止令や渡航自粛要請が夏までにどのくらい収束しているかに懸かっているだろう。

FIVERINGS

なお、主要国が選手派遣を大規模にボイコットした前例としては、1980年モスクワ大会がある。当時のソ連アフガニスタン侵攻への対抗措置として、アメリカ政府が西側陣営諸国に大会ボイコットを呼びかけた結果、米国、日本、中国、韓国、西ドイツ、カナダ、サウジアラビアなど50ヶ国がボイコットする事態となったのだ。

では、この時オリンピックは延期や中止になったかというと、そうではなかった。当時、IOC財源の放送権料への依存度は、実は現在よりも高かったのだが、それでも予定通り開催されたのである。政治問題が原因とあれば、年をまたげば収束が見通せるものでもなく、そもそも政治問題から距離を取るIOCのポリシーに照らしても、やらざるを得なかったというところだろう。

すると気になるのは放送局の対応である。モスクワ五輪の日本での放送権は、日本のオリンピック史上、唯一、テレビ朝日が単独で契約していた。社運を賭けて独占放送契約に臨んだ大会が、世界の半分の国が参加しないスカスカ五輪になってしまったのだ。現在と比べれば安いが、それでも約21億円の放送権料を払ってこの悲劇である。これを受けて、一時は放送中止を発表したものの、結局細々と放送している。

米国ではNBCが約210億円で放送権を取得したが、ボイコットを受けて放送中止を決断。しかし保険をかけていたので、放送権料の90%は補填されたという*1。ちなみに、NBCは今大会でも保険に入っているため、仮に東京大会が中止や延期になっても放送権料の補填は受けられると報道されている。

2.もしスポンサーが異を唱えたら

オリンピックのスポンサー各社が異を唱えた場合はどうなるだろうか。開会式まであと4ヶ月となり、スポンサー各社の五輪関連広告や商品の露出が格段に増えている。しかし、感染拡大の社会不安があり、このまま開催すればどうなるか分からないという雰囲気の中で、それをよそにいくら広告で五輪バンザイを強調されてもしらける一方である。

スポンサーへの好感度も、下がることはあっても、上がりはしないだろう。しかし、不思議とスポンサーの声は聞こえてこない。

もっとも東京大会のみのスポンサーである、ゴールドパートナー以下の日本企業に関しては、もうスポンサー料は払ってしまっているので、今さら大会日程を動かせるだけのパワーはないだろう。あとは東京大会の成否と命運を共にするだけである。

それに、多くの日本のスポンサーは、何十億円~百数十億円と言われるスポンサー料を払っておきながら、経済合理性ではなくて、謎の「大企業としての責務」として五輪に協賛しているきらいがある(そんな余裕ないだろ)。精神的にも「金は出すが口も出すスポンサー」ではなく、寄付のようなノリである。あまつさえ、エンブレムやマスコットなどを使用するのに逐一厳しい監修を受けているのだから、どっちの立場が上なんだか分かりゃしない。スポンサーというよりはむしろライセンシー的である。

一方、ゴールドパートナーよりも、さらにケタ違いのスポンサー料を協賛している、コカ・コーラトヨタ自動車サムスンなどのワールドワイドオリンピックパートナーとなれば、話は違うだろう。彼らは東京大会のみならず、今後のオリンピックの継続的な支援の鍵も握っている。運営実務面においても大きな発言力を持っている。そんな彼らが、

「こんな社会情勢下でいくらオリンピックをやったって、コカ・コーラより消毒液の方が売れるだろ!? 落ち着くまで延期しろボケが!」

などと声を挙げたらいったいどうなるだろうか。いまだ、その意向がなかなか表立って報じられない、ワールドワイドオリンピックパートナー各社の動向を、私は注視している。

友利昴「オリンピックVS便乗商法 まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘」(作品社)
友利昴 オリンピックVS便乗商法

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*1:『総合ジャーナリズム研究』1980年7月号(東京社) 藤木慧「中継する権利と報道する義務 (モスクワ五輪問題とマスコミ特集)」