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【書評】『棋譜に著作権はあるのか』—棋譜保護の議論をめぐる現時点での決定版

《目次》※目次のハイパーリンクは記事本文に飛ぶと機能します

  • 1.棋譜配信事件~その後~
  • 2.結局、棋譜の無断利用は不法行為なのか?
  • 3.『棋譜に著作権はあるのか』は現時点での決定版の書だ!
  • 4.再び再考しよう。本当に「極端なチート行為」なのか?
  • 5.松尾先生と筆者の〈問題意識〉の違い

 

1.棋譜配信事件~その後~

将棋の駒の指し手順であるところの「棋譜」を、日本将棋連盟などの棋戦主催者に無断でYouTubeなどで配信すると、著作権侵害にはならないにしても、不法行為になるのだろうか? これについて、筆者は『エセ著作権事件簿』で以下のように書いた。

原則として、知的財産の分野では、知的財産権侵害にならないことが分かっているものを、不法行為といういわばウルトラCを使って裁くことはできないのだ。「原則として」と書いたのは、理論上はあり得るからだが、まぁよほどあくどいやり方で、社会常識や商慣習を逸脱して、営業の自由の濫用というべき極端なチート行為でもしない限り、棋譜の配信が不法行為になることはない。仮に裁判になれば、困るのは明らかに〔日本将棋〕連盟の方である。

友利昴『エセ著作権事件簿』(パブリブ)「棋譜配信事件」p. 447

『エセ著作権事件簿』は、著作権侵害を主張したが敗訴した裁判例や、裁判にはなっていないがまずもって著作権侵害の主張が認められるはずのない言いがかりやイチャモンのパクリ騒動ばかりを集めた事件簿である。

基本的には執筆時点ですでに判決が出ていたり、騒動が収束したりして、筆者が評価確定と判断した事件を収録している(例外として編み物著作権事件とKuToo事件は係属中だったが評価確定と見なし採用し、その通りの決着となっている)。棋譜の記事は、朝日杯を主催していた朝日新聞が、クロノという将棋ユーチューバーに対し、X(当時Twitter)上でいきなり居丈高に配信を中止しろと要求して顰蹙を買った2020年の事件を評したものであった。

だが予想に反し、棋譜の利用にまつわる事件は、刊行後に大きな展開を見せる。クロノ事件はエキシビジョン・マッチに過ぎなかったのだ。その後の動向を簡単に追いかけよう。

相変わらず日本将棋連盟らは棋譜の利用制限に執心していたが、棋譜の利用は著作権侵害にも不法行為にもならないという見解が多数説だったので、多くの配信者に無視されていた。その状況に辛抱たまらなくなったのが連盟ファミリーの囲碁・将棋チャンネルである。同社はYouTubeに対し、著作権侵害を理由に、棋譜配信動画の削除請求を行う。

これに対し、通報された配信者側が、虚偽通報によって損害を被ったとして、逆に将棋チャンネルを訴えたという事件が2022年に大阪、2023年に東京で起こっている。動画配信界隈には、よほど「棋譜の配信の何が悪いの?」という雰囲気があったことがうかがえる。

ところが、大阪高裁は配信者の訴えを認めず、逆に「配信者の棋譜配信行為こそ不法行為である」という認定をした(大阪高裁2025年)。なお東京では同年に配信者の方が(一応)勝訴している(知財高裁2025年)。さらに、2023年に大ボスといえる日本将棋連盟と竜王戦を主催する読売新聞社が、配信者をストレートに不法行為で訴えた裁判も登場。この裁判で連盟サイドは実質的な勝訴を勝ち取っており、この配信者の棋譜配信行為も不法行為にあたると認定されている(東京高裁2026年3月)。

2.結局、棋譜の無断利用は不法行為なのか?

こうした判決が続いたことで、にわかに「棋譜の利用はやはり不法行為にあたる場合があるのでは……」という雰囲気が出てきている。なぜ、このような判決に至ったのか。実は、『エセ著作権事件簿』で述べた「よほどあくどいやり方で、社会常識や商慣習を逸脱して、営業の自由の濫用というべき極端なチート行為でもしない限り、棋譜の配信が不法行為になることはない」という論理自体は、いずれの裁判所も踏襲しており、この考え方が覆されたわけではない。

ただ、棋譜を(正確には盤面挙動の再現動画を)、実際の棋戦の対局とほぼ同時あるいは当日中に、その対局のすべてについて配信するのは、上でいうところの「極端なチート行為」にあたると評価したのだ。

この評価の是非は一旦おき、これが、棋譜の利用行為の法的評価に関する「現在地」である。

非常に前置きが長くなったが、この「現在地」を丁寧に分かりやすくまとめたのが、松尾剛行弁護士の『棋譜に著作権はあるのか』(弘文堂)だ。このワンテーマで一冊の単行本にしたというのがまず驚きである(300ページ近くある!)。

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【新刊】約15万件の商標から厳選!『明治・大正のロゴ図鑑―登録商標で振り返る企業のマーク』

新刊『明治・大正のロゴ図鑑―登録商標で振り返る企業のマーク』(作品社)が発売になります。明治時代後半(概ね明治30年頃)から大正時代にかけてのロゴマークを、日本の登録商標の記録から紐解く、という図鑑です。

友利昴 作品社 明治・大正のロゴ図鑑

明治時代、大正時代のポスターや広告、看板デザインなどを集めた本は、近年の?レトロブームもあって結構たくさんあります。例えば、『新装版 昭和モダン 看板デザイン 1920s-30s』(青幻舎ビジュアル文庫)、『明治・大正・昭和の変な広告』(河出書房新社)、『大正昭和レトロチラシ』(青幻舎)などは面白かった。一方、本書は「登録商標」を切り口に当時のロゴマークを振り返るという趣向です。

この切り口のいいところは、ポスターや広告を眺めていても滅多に出会えない「激レア」なロゴマークに出会えることです。明治・大正時代に、後年にまで残るようなメディア露出ができた事業者は、ほんの一握りの大手企業です。多くの事業者のロゴマークは、実はそうしたメディア史には名を残していないのです。

インクの染みをモチーフにしたロゴマーク。前衛的過ぎる。

その点、商標登録は、事業者の業種や規模を問わず、自社のロゴが真似されないように、あるいは自社のロゴの使用が脅かされないようにという保護の目的で行うものですから、かなり網羅性があるんです。果たして、類書には見られない、見た事もないような奇抜なロゴマークが多数収録されています。しかし、これらは確かに、当時存在し、このロゴをデザインした人がいたのです!

好評重版となった『江戸・明治のロゴ図鑑』の続編ですが、『明治・大正』から読んで頂いても問題ありません。前作の時代と、この時代のロゴマークの違いのひとつとして、ロゴマークが急に「時代と寝る」ようになったことが挙げられます。

江戸時代や明治時代初期は、創業者の家紋に代表される、その家、事業者の「こだわり」が表れたロゴが多かったのですが、時代が下ると「今、こういうデザインが流行ってるから」「今、時代のムードはこうだから」という、周囲の空気をうかがうようなデザインが増えてるんです。

復興支援マーク?関東大震災直後の商標

例えば、大正時代初期には「キューピー人形」ブームがありましたが、そうするとキューピー人形をモチーフにしたロゴマークがわんさか出る、といったようなことです。そのなかで生き残ったのが、今日の「キユーピーマヨネーズ」のロゴだったりするのですが、こうした有名企業のロゴにまつわる逸話や事件簿なども紹介しています。

とにかく、今では考えられない、「この時代ならでは」の激レアなロゴマークたちを、ぜひ、お楽しみください。

明治・大正のロゴ図鑑

全裸にハイソックス姿のキューピー

友利昴『明治・大正のロゴ図鑑―登録商標で振り返る企業のマーク』(作品社)

友利昴 作品社 明治・大正のロゴ図鑑

友利昴『江戸・明治のロゴ図鑑―登録商標で振り返る企業のマーク』(作品社)

友利昴 江戸・明治のロゴ図鑑

2025年の出版・寄稿・講演・イベントを振り返ります

最近、たまたま、かなり単発の記事執筆、講演の依頼が続きました。スケジュール管理には問題がないのですが、事後の振り返りをする暇がなかなか取れず、自分がいつ何をやったのかの実績管理が覚束なくなってきました。

本来私は、ひとりで何万字以上の長文を家で書いているのが、一番好きな時間です。コミュニケーションスキルについての講演をしたりしていますが、それは身に着けたスキルでして、実はインドアな性格なんですよね。

しかし、わざわざお声かけ頂いたのであれば、なるべく自分の専門分野とスキルの範囲で、ご協力したい、貢献できればと思っています。そんなモチベーションでお受けしていたら(分野やスケジュールなどの問題で受けられなかったものもありますが)、結構、やったことがないことにも挑戦することができました。

生放送の討論番組なんて出て大丈夫かな、とか、学会発表なんて引き受けて大丈夫かな、とオファーを受けた瞬間には、思わなくもない案件もありましたが、やってみたらそれなりに大変ですがどれも有意義でしたし、なんとか貢献できましたね!(なんとかなってましたよね?)

ようやくひと段落をしたところなので、2025年の覚書、といった趣旨で、活動記録を振り返っていきたいと思います。この他、企業様向けのクローズドの社内研修なども担当させていただきました。

友利昴

忙しいはずだこれは。2026年は新刊『明治・大正のロゴ図鑑―登録商標で振り返る企業ロゴの歴史と発展』(作品社)の刊行が控えています。本書の執筆に関しては、主に4月から8月くらいまで取り掛かっていました。冒頭に書いた通り、本当はもっとこういうじっくり執筆に時間をかけたいところです。