ブログブログ by 友利昴

自分に関する記事を書いたものです。

【目次・前書き一挙公開】友利昴『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)

2023年7月に新刊『職場の著作権対応100の法則』日本能率協会マネジメントセンター)が発売になります!

友利昴 職場の著作権対応100の法則

この本はビジネスパーソンや一般職場向けの著作権の本って、実はあまりないんです」という担当編集者の方の分析からスタートした企画です。そう言われた時、私はひざを打ちました。「なるほど、なるほど」と。

確かに最近、クリエイター向けの著作権本はいくつも出ていますが、「職場向け」というのは盲点だ。著作権の本には、①専門家向けの学術本、②一般向けの教養本、③特定ユーザー層に特化した実用本の主に3種類がある。ビジネスパーソンには②が参照されることが多いのだが、これらはほとんど一般論に終始していて実務的ではなく、読んで「モヤモヤ」させられることが少なくない。そこに風穴を開ける本であれば書いてみたい、と思ったのですね。

早い段階で意識したコンセプトとしては「簡単にダメとは言わない」「なんでもかんでもダメとは言わない」「やりたいことを実現するためにはどうすればよいのか、どう考えればよいのかを書く」。ということです。あれもこれもダメとしか書いてない著作権本なんて、読んでも白けるだけでしょう。そういう本も多いけどさ……。

社内でのコピー、フリー素材、AI生成画像、他人の商標や有名人の氏名の利用――ダメ、リスクがあると書くのはすごく簡単なんです。リスクはゼロじゃないからね。でもそういう簡単な回答に甘んじることなく、どんな行為にどの程度のリスクがあって、どこまでなら大丈夫なのか。そしてそのリスクを減じるためにはどうすればよいのか。できるだけ、明確な解を示したいと思って書きました。それが、職場で著作権に困ってる皆さんが本当に知りたい「答え」だと思ったからです。

また、取引先との間での著作権トラブルがあったときの折り合いのつけ方、侵害トラブル、クレームトラブルの収め方などにも、できるだけ地に足の着いた現実的な指南を心がけました。そこが、一番私が得意なところなので……。トラブルになってからの方が、この仕事面白いんです。

といったわけで、以下、本書の「まえがき」と「目次」を一挙に公開いたします。意外と著作権以外の関連領域の題材も盛り込んでいますので、広くビジネスパーソンにおすすめです。

『職場の著作権対応100の法則』もくじ

第1章 日常業務でふと著作権が不安になったら

001 社内でのコピーはどこまでOK?

002 社内で認められる「私的複製」の程度は?

003 社内でのコピーが著作権トラブルになる場合は?

004 イントラネットでの共有は違法?

005 メディア記事を合法的に社内共有するには?

006 社内のコピーで裁判沙汰ってあり得るの?

007 個人事業者の業務上のコピーは「私的」?

008 会社の端末にフリーソフトをインストールしていい?

009 Officeソフト収録のイラストは自由に使える?

010 オンライン会議で著作物を「画面共有」できる?

011 外部研修資料の共有はどこまでOK?

012 外部研修講師の資料を手直しして使っていい?

013 他社の利用規約や契約書を自社用に流用していい?

014 クラウドストレージを社内で使っていい?

015 会社の館内放送でBGMを流してもいい?

016 公共機関では著作物の無断利用が許される?

コラム1 偶然の一致は著作権侵害にあらず

第2章 参考、流用、引用……どこまで許される?企画業務と著作権

017 業務上ネットでの情報収集は問題ない?

018 図書館の資料を業務用にコピーできる?

019 図書館資料のデジタルデータは活用できる?

020 ネット検索で見つけた画像は利用できる?

021 他人のデータ、グラフ、表を利用するときの注意点は?

022 退職した社員が作った業務資料は流用していい?

023 前職の自作資料を転職先で流用できる?

024 自社の著作物なら社員は自由に使える?

025 プレゼンで採用候補として他人の著作物を使いたい

026 フォントを商用利用するには許諾が必要?

027 AIに描かせたイラストは商品に使って大丈夫?

028 AIの生成したイラストや文章が無断利用されたら?

029 どこまで似ていたら著作権侵害になる?

030 キャラクターをケーキやネイルに描くサービスは大丈夫?

031 「引用」を使いこなしたい

032 商品や広告で「引用」は認められる?

033 切れたはずの著作権が復活することはある?

034 歴史的に貴重な絵画は勝手に使っていい?

035 偉人や有名人の名言・格言は自由に使っていい?

036 商品や広告に国旗のデザインを使っていい?

037 商品や広告に家紋のデザインを使っていい?

038 新商品のネーミングは他社が商標登録済み。どうする?

039 Ⓒ表示ってどう活用するの?

040 ⓇマークやTMマークはどう活用するの?

コラム2 出所表示の作法とは

第3章 目立ちたいがトラブルも困る!? 販促・広告業務と著作権

041 フリー素材を使いこなしたい

042 有料素材、ストックフォトを購入すれば自由に使える?

043 素材配布サイトはどこまで信用できる?

044 商品や広告に有名人の氏名を使ってい?

045 有名人の写真は使っていい?似顔絵は?

046 ストックフォトのモデル写真は使い放題?

047 流行語を商品のキャッチフレーズに取り入れていい?

048 他社の商品名は勝手に出してはいけない?

049 他人の商標を普通名称のように使うと問題?

050 他人が作成した地図を勝手に使ってはいけない?

051 故人・歴史上の偉人を広告に利用していい?

052 広告の小道具として市販品を使用するのは問題?

053 看板や一般人が広告等に写り込んでしまったら?

054 自社がメディアで紹介された!宣伝に使っていい?

055 広告で「SNSユーザーの声」を使っていい?

056 企業アカウントの著作権と責任は誰にある?

057 SNSの「個人の見解です」はどこまで有効?

058 販促目的なら多少の無断利用は許される?

059 紹介目的なら多少の無断利用は許される?

060 景品キャンペーン時、景品の発売元に許諾を得る必要は?

061 大手企業との取引実績を勝手に宣伝に使っていい?

062 ランドマークを商品や広告に使っていい?(著作権編)

063 ランドマークを商品や広告に使っていい?(商標・意匠権編)

064 ランドマークが「商用利用禁止」を表明している場合は?

065 イベントへの便乗商法の是非は?(法的解釈編)

066 イベントへの便乗商法の是非は?(クレーム対策編)

コラム3 商標ブローカーは無視してよし

第4章 クライアントと著作権、強いのはどっち?

067 成果物がクライアントに改変されたら?

068 クライアントや上司から模倣を強要されたら?

069 クライアントからクレーム対応を要求される……

070 不合理な取引条件を「業界慣習」だと言われたら?

071 納品デザインが別の何かに似ているが大丈夫?

072 自社の過去の著作物を流用して制作しても問題ない?

073 業務請負先が途中降板!別の業者に引き継がせていい?

074 「なあなあ」で著作物を利用していたらクレームが……

075 著作権の譲渡を受けるときの作法は?

076 デザイナーを雇えば会社の著作物にできる?

077 企画の売り込みが来た!著作権上の注意点は?

078 一般公募で応募者と著作権で揉めないためには?

079 一般公募で権利侵害作品の応募を防ぐには?

080 「念のため」に許諾を求めたら断られてしまった……

081 「念のため」で確認を求められたらどう対応すべき?

082 法的には許諾不要でも「皆が許諾を得ている」なら取るべき?

083 メディアからの素材提供依頼に即答して大丈夫?

084 異業種コラボでコラボ先から商標登録を求められたら?

085 取引先に著作権を侵害されたらどうする?

コラム4 結局、クライアントと著作権はどっちが強い?

第5章 著作権トラブルを知恵と勇気で乗り切ろう!

086 著作権侵害に気が付いたときの初動対応は?

087 自分が著作権者だとどうやって証明する?

088 ネット上の著作権侵害者を特定するのが難しいときは?

089 実用品の模倣に対する著作権の主張は難しい?

090 実用品の模倣で著作権を主張する場合のポイントは?

091 うっかり無断利用してしまった際の事後承諾の取り方とは?

092 著作権侵害の警告を受けたら?(言い逃れできない場合)

093 著作権侵害の警告を受けたら?(反論できる場合)

094 無関係の第三者から「権利侵害クレーム」が来たら?

095 ネット上で謂れのない「パクリ疑惑」が……

096 「無断転載禁止」「禁転載」にはどんな効果がある?

097 「無断引用禁止」「無断AI学習禁止」にはどんな効果がある?

098 著作権と商標権はどっちが強い?

099 著作権侵害は「バレなければリスクはない」?

100 「合法でもクレームが来るかも」と、それでも不安?

《まえがき全文》

友利昴 職場の著作権対応100の法則

職場の著作権対応100の法則 試し読み

友利昴『職場の著作権対応100の法則』日本能率協会マネジメントセンター

職場の著作権対応100の法則 友利昴

仕事の「著作権あるある」問題を解決しよう――『職場の著作権対応100の法則』イベントもやります。無料オンラインです。お気軽にお申込みください!

友利昴 職場の著作権対応100の法則

メリークリスマス!『エセ著作権事件簿』&『知財部という仕事』ダブル重版だよサンタさん。

先日、発明推進協会さんで「企業知財担当者のためのコミュニケーション術~知財担当者が周囲とウマくやりながら成果を出すための実践的ノウハウ~」という研修の講師をしてきました。昨年も行ったものですがご好評頂けたようでしたので、今年もというお話でした。

友利昴 発明推進協会

一回やったセミナーをもう一度やるのは気楽だろうと思われがちですが、どうしても内容をブラッシュアップしたくなるので結局割と大変なんです。果たして受け入れられるかどうか……と思いながらしゃべってますが、どうでしょう。結構いいグルーヴ感を出せたような気がします。しゃべってて楽しかったんですよね。

相変わらずオンラインセミナーなので、聴き手の直接のリアクションを拝見できないというのはありますが、さすがに3年もこういう環境だと、こなれてきましたかね。今後は、対面セミナーもあればオンラインもあるでしょう。うまく適応できればなと思います。

このセミナーは、知財担当者が周囲と良好な関係を維持しながら周囲の信頼を得て、仕事で成果をつかむための身の処し方について著した拙著『知財部という仕事』をベースにしています。こういった本を書いておいてなんですが、ビジネスにおいて周囲からの信頼をいかに得るかという取り組みに、終わりはないですね。これからも読者の皆様と一緒に考えていくことなんだと思います。

今年は『エセ著作権事件簿―著作権ヤクザ・パクられ妄想・著作権厨・トレパク冤罪』が出たこともあり、他にも色々公にしゃべる機会がありました。ゆるカワ♡商標ラジオDOMMUNEArts and Law知財実務オンラインと。いや~どれも本当に楽しかった!出会いに感謝!呼んで下さった方々、共演頂いた方々には本当に感謝です。実はセミナーとか人前に出るの本当はあまり好きではなくて、いつも面倒だけど断り切れなかったり、宣伝だと思って割り切って出てるんです笑(スケジュールの都合で断っているものもありますが)でも出ると楽しい!!全力出しちゃうし。

その『エセ著作権事件簿』と『知財部という仕事』ですが、それぞれ同じタイミングで重版することになりました!

エセ著作権事件簿 友利昴

どちらも在庫薄ということで、これまた読んで下さった皆さんに感謝!出荷はどちらも年明けからになるとのことですので、冬休み、年末年始に読書したい方は、今出回っている市中在庫をお早めにゲットしてください。私も年末年始はいつも読書して過ごしたいので、書籍を買う量が増えるんですけど、年末年始のために本を買うのって楽しいですね。ぜひ読んでみてください。では良いお年を!メリークリスマス!

友利昴『知財部という仕事』(発明推進協会)

転職 知財部という仕事 友利昴

友利昴『エセ著作権事件簿―著作権ヤクザ・パクられ妄想・著作権厨・トレパク冤罪』(パブリブ)

エセ著作権事件簿 友利昴

『エセ著作権事件簿』補稿2―編み物ユーチューバー事件高裁判決を受けて

 《目次》

 

1.トンデモエセ著作権事件の控訴審判決出る!

『エセ著作権事件簿ー著作権ヤクザ・パクられ妄想・著作権厨・トレパク冤罪』に収録しているエセ著作権事件の中で、最後の判決となったのが「編み物ユーチューバー事件」です*1これが実にトンデモないエセ著作権事件で、一旦は2021年12月の地裁判決で決着がついており、原稿もそれに基づいて書いていました。

まさかこんなトンチキな事件で控訴はないだろうと思っていたわけですが、執筆中に、エセ著作権者側が控訴したという一報に触れ、私は困惑したものです。書籍にまとめるには、せめて控訴審の結果までは見届けるべきではないか……という葛藤もありましたが、本件は『エセ著作権事件簿』で取り上げた事件の中でもトップ5に入る常軌を逸したエセ著作権事件。どうしても収録したかったので、著者の責任において、控訴審でも主要な認定部分が覆ることはないと踏んで、掲載に踏み切った次第です。

そして今般、2022年10月14日に大阪高裁で判決が下り、(上告はさすがにないと信じれば)判決が確定しました*2。もちろん、これがエセ著作権事件だったという認定は維持。おまけに裁判官がエセ著作権者側に課したペナルティは、原審判決の約4倍に膨れ上がった。我が物顔でエセ著作権を振りかざすと、どんな目に遭うかという教訓を含んだ控訴審判決を踏まえて、本事件の補稿を記しておきましょう。

エセ著作権事件簿 感想

2.「編み物ユーチューバー事件」概要

事件の概要はこうだ。手芸品の編み方などを動画で解説する編み物YouTuberのSusanna's Hobbies(以下、スザンナ)が、競合する複数の編み物YouTubeチャンネルに対して、「単なる盗人」「人間としての尊厳を失っている」などと言いがかりをつけ、またYouTubeに対し著作権侵害であると通報・削除請求を行い、動画を削除させたという事件だ(なおYouTubeはその仕組み上、著作権侵害の申告があれば、法的検討はせずに形式的な確認のみで削除を行う)

ところが、これが明らかなエセ著作権であり、単なる競合チャンネル潰しだった。そこで、被害を受けたYouTuberのひとり、yukigoyaが、エセ著作権の行使による動画削除で精神的損害および経済的損害が生じたとして、その賠償を求めて逆にスザンナを提訴したのである。

スザンナ側の常軌を逸した暴走っぷり、著作権に対する壮絶な無理解っぷりと、地裁判決までの顛末については『エセ著作権事件簿』を読んで頂くとして(冒頭部分を載せます)、以下では高裁判決の意義について述べよう。

編み物著作権事件

3.いい加減な権利侵害通報は、罪になる!

高裁判決は、インターネットプラットフォームにおいて権利侵害を通報する者(削除請求者)の法的責任について、プラットフォームが実体的な法的検討をせずに、通報に基づき削除する仕組みを採用していることを前提に、以下のように述べている。

著作権侵害通知をする者が、〔通知者自身が著作権者等であること、投稿者によるコンテンツの使用が法律で許可されていないことを確信していること、通知が正確であること等の…〕注意義務を尽くさずに漫然と著作権侵害通知をし〔…〕結果的に〔…〕著作権侵害に当たらない動画を削除させて投稿者の表現の自由という人格的利益、動画収益化という営業活動による〕利益を侵害した場合、その態様如何によっては〔…〕不法行為を構成するというべきである。(大阪高裁令和4年(ネ)265号・599号判決文)

要するに、正しい権利者が正しく権利行使をすることを前提にした通報制度を悪用してエセ著作権を振り回したり、ろくすっぽ確認もせずに投稿を削除させて、投稿者の利益を侵害すれば、法的責任を問われることをハッキリと説いたのだ。

これ、スザンナのようなエセ著作権者には言うに及ばず、大手の権利者にとっても胸に刻むべき内容だろう。一日に何百件も侵害通報をしている権利者の中には、一件一件丁寧に確認することなく、漫然と削除申立をしているケースもあり、それは別に珍しくないのだ。調子に乗ってめくらめっぽうにバンバン削除していると、いつかしっぺ返しを喰らうかもしれませんぞ。

4.妄想じゃない、彼女は確信犯型のエセ著作権者だ!

もっとも、一般論として、著作権侵害かどうかを見極めるのは難しい場合があるし、誤通報はいかなる場合でも違法、というわけではないだろう。本判決も「(他人の適法な動画を削除させた)その態様如何によっては不法行為を構成する」と留保をつけている。

しかし「ではどのような態様だったら違法になるのだろうか」というボーダーラインを探るうえでは、この判決はあまり役には立たないかもしれない。何せ、判決文で認定されたスザンナの権利行使態様といったらあまりにもヒド過ぎるからだ。誰だって、「ここまでしてりゃそりゃ誰でも法的責任を問われるだろう」と思うはずだ。

実は筆者は、『エセ著作権事件簿』執筆時、諸々の資料や取材を通して、スザンナという人は、無知ゆえに著作権侵害被害を信じ込み、怒りに任せて他人を攻撃するパクられ妄想型のエセ著作権だと考えていた。

しかし、これはどうも違ったようだ。高裁がさまざまな証拠から認定したところによると、実はスザンナは、事件以前に「〔世に言われている〕著作権というのは、本当は著作権として認められないものが多いと思う」「著作権のないものをそもそも著作権と主張するほうが本当は脅しなんだ」などの発言を、YouTubeコメント欄に残していた。つまり「エセ著作権」という概念を、正しく理解していていた節があるのである。

にもかかわらず、同時に、自分の動画の紹介内容と、少しでもカブった後発の投稿動画について、「一分一秒でも早い方が権利が発生している」「法的措置を取る」などと公言し、実際に、同じ編み方を紹介しているだけの複数の編み物チャンネルに抗議のコメントをしたり、YouTubeに侵害通報し削除させたりしていたのだ。言動が完全に矛盾している。

おまけに、動画を削除された投稿者から「どこが著作権侵害なのか?」という問い合わせを受けると、はぐらかして何ら回答せず、YouTubeを通して異議や反論を行おうとすると「異議申し立てを簡単にしてはいけない」「示談しろ」「誠意を見せろ」「それが嫌な場合は動画を削除せよ」となぜか上から目線で執拗に牽制。

さらに相手が弁護士に相談することを示唆すると、「一度痛い目見ないといけないみたいですね」「和解契約結ぶなら話聞きますが?お話ならないなら詐欺で警察にも行けるお話ですが?」などと恫喝したのだ。こうした数々の問題ある言動から、高裁は以下のように認定している。

・本件侵害通知は、いずれも法的根拠に基づかない。
・控訴人〔スザンナ〕は、むしろ動画の著作物性の有無の判断には困難が伴うことをかねてから認識していたことが認められる。
〔他人が、〕控訴人〔スザンナ〕が動画で紹介している編み方と同じ編み方で動画を投稿することを事実上抑止しようとしていたことがうかがわれる。
著作権侵害通知制度を利用して、競業者であるといえる同種の編み物動画を投稿する者の動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。

以上から、判決はスザンナのエセ著作権による侵害通知行為の態様について「〔正当性を〕何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえるばかりか、〔…〕著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできる」と厳しく指摘している。

要するに、無知ゆえに被害妄想的なエセ著作権を振り回していたのではなく、著作権侵害にはあたらないことを認識しておきながら、敢えて、エセ著作権を振りかざして他のチャンネルの運営を妨害していたことが認定されたわけだ。これは無知よりも悪質だ。結論として、地裁判決で認められた損害賠償金約7万円を4倍ほど倍額した約26万円の支払いが命じられている。

5.被害者の名誉が回復することを祈る!

この26万円という賠償金額以上に、スザンナの常軌を逸した言動の数々が、司法判断という形で白日にさらされたことの意義は大きいといえる。このことによって、yukigoyaさんをはじめ、トンデモない濡れ衣を着せられた編み物YouTuberたちの名誉は、ようやく正式に回復されたといってよいのではないだろうか。回復していることを祈るし、スザンナさんにも本当に反省してほしいですね。

なお、26万円という賠償金についてだが、増額されてよかったと思うが、個人的にはまだ安いのではとすら思う。本件のエセ著作権行使の悪辣な態様を考えれば、もっと大きな損害が生じていたと言ってもよいのではないか。

《追記:2023/7/3》2023年1月、スザンナ側が最高裁に上告申立をしたことが判明。2023年6月30日、最高裁が上告を棄却。

ところで、本件と類似する事案として、Amazon.co.jp上で、模倣品でもなんでもないのに、無関係の商標権に基づいて商標権侵害の通報を受けて、出品商品が削除されてしまった枕の販売業者が、逆に通報者を不正競争防止法2条1項21号(虚偽の事実の告知による信用毀損行為)で訴えた「COMAX事件」*3が思い出される。

商品を削除された会社は、「COMAX」というブランドで「枕」を売っていた。通報者であるCOMAX JAPANという会社が保有する商標権も、「COMAX」という商標ではあるのだが、その内容は「ゴム」についての商標権という、かなりデタラメな権利行使であった*4ゴムと枕とでは、天と地ほどの差がある。もっともこのデタラメな侵害通報は、純粋にAmazonのみに対する通報であって、ユーザーから見えるようにレビュー欄に書き込んだり、公にこの枕の会社を罵倒したり恫喝したしたわけではなかった。それでも、信用毀損による無形損害に係る賠償金として、60万円の支払いが命じられているのである。個人YouTuberと、多数の取引先を持つ販売事業を営む株式会社という差もあるのかもしれないが、あのような威圧的で意味不明な主張を多方面で繰り返されたことによる精神的苦痛は、COMAX事件の被害者よりもかなり強かったのではないかとも思うのである。

SNSECサイトなどのプラットフォーマーにおける権利侵害トラブルは、今後も尽きないだろう。プラットフォーマーの採用する権利侵害対策の仕組みが変わらなければ、これからこの手の「虚偽通報」、すなわちエセ著作権をめぐるトラブルや訴訟はますます増えると思われる。本件編み物ユーチューバー事件やCOMAX事件の判決は、先例的価値のある裁判例として記憶したいところだ

というわけで、これで『エセ著作権事件簿』で取り上げた事件は、すべてケリがつきました。なお冒頭で、この事件は『エセ著作権事件簿』で取り上げた中でも五本の指に入ると書きましたが、この他、狂気レベルのエセ著作権を振り回して裁判所を困惑させた事案がいっぱいあるんです。本書では他に、

  • 日本のアニメにパクられた!とアメリカ合衆国政府を訴えた男『ゾディアック・ナイツ2000』事件
  • 字の配置が似ている!コワモテ書家の理不尽訴訟に福山雅治も困惑!?『龍馬伝』事件
  • 狂気!パクられ妄想を天皇陛下に直訴した暴走老人に塩を撒け!『中国塩政史の研究』事件
  • 困惑!タイトルがカブってキレたジャーナリストのカツアゲ訴訟!『父よ母よ』事件

などなど、キョーレツ極まる事件を多数収録しています。ぜひ読んでみてくださいね。ヤバいから。ヤバいヤツいっぱいいるから。狂ってるから。

友利昴『エセ著作権事件簿―著作権ヤクザ・パクられ妄想・著作権厨・トレパク冤罪』(パブリブ)

エセ著作権事件簿 友利昴

友利昴『エセ商標権事件簿―商標ヤクザ・過剰ブランド保護・言葉の独占・商標ゴロ』(パブリブ)

エセ商標権事件簿 友利昴

*1:出版時点で係属中だったのは、他に「#KuToo事件」と、コラムで触れた「高野隆弁護士懲戒請求書暴露事件」。両事件とも、刊行後に最高裁への上告が棄却され、本で書いた通りの結論で確定した。

*2:阪高裁令和4年(ネ)265号・599号。【追記】2022年11月2日に、被告(エセ著作権側)が上告したの報がありました。えーっ。【さらに追記】2023年6月30日、最高裁が上告を棄却。

*3:東京地裁平成30年(ワ)22428号

*4:正確に言うと、やや複雑な事情がある。「COMAX」は元々海外のブランド枕で、削除された方(原告)も通報者(被告)も、海外のCOMAX関係の別々の会社からそれぞれライセンスを受けて日本で枕を販売していたのだ。つまり原告も被告も「正規品」を売っていたようなのだ。ただライセンサーの許可を得て日本で商標権を保有していたのは原告であり、被告は苦し紛れに?ゴムについての商標登録をしていたようなのだ(この枕はラテックスゴムでできてるそうである)。被告としては「正規のライセンシーはウチだ」という趣旨で削除申告をしたようなのだが、商品は明らかに枕であり、原料のゴムについて商標権を取得しても無意味であり、あまつさえそれを根拠に商標権侵害というのは圧倒的な誤りないし虚偽である。

『エセ著作権事件簿』補稿―#KuToo 事件最高裁上告棄却を受けて

『エセ著作権事件簿―著作権ヤクザ・パクられ妄想・著作権厨・トレパク冤罪』では、基本的には既に判決が確定していたり、法的評価が明確になっているものなど、既に歴史になった事件を取り上げています。しかし、収録候補とした事件の中には、裁判係属中ながら取り上げる価値が高い事件がいくつかありました。基本は涙を呑んでボツにしたのだけれど、2件だけ収録しています。それが「#KuToo事件」「編み物ユーチューバー事件」です。

この2件については、刊行後に新たな判決が出たとしても、少なくとも著作権侵害にかかわる本質部分について判断が覆ることはないと考え、著者の責任において収録に踏み切ったもので、判決が確定したら必要に応じて補稿を発表しようと思っていました。

今般、このうち「#KuToo事件」について、原告著作権者側)の上告が棄却となり、本書で評した控訴審までの判断が維持され、原告敗訴が確定し終結しました(原告・被告双方の代理人が発表)。これを受けて、いささかの追加メモを残しておきたいと思います。

なお事件概要や控訴審までの評価については『エセ著作権事件簿』を読んでみてください。もしくは事実関係だけ細かく追いたいのであれば、裁判所が公表している判決文東京地裁令和2年(ワ)19351号知財高裁令和3年(ネ)10060号か、被告代理人の法律事務所が訴状等含めいくつか裁判資料を公開しています。読みましたか? 読みましたね? 最初のページだけ置いておきましょうか。買って全部読みました? それでは、以下が補稿です。

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