ブログブログ by 友利昴

自分に関する記事を書いたものです。

「任天堂VSマリカー」東京地裁判決について(2)結局、コスプレ衣装レンタルって違法なの?

前回に続きまして、任天堂VS. MARIモビリティ開発(当時マリカー)の地裁判決文の感想その2です。

 

(2)結局、店内でのコスプレ衣装の提供はやっていいのか悪いのかうやむやになってないか?

 

MARI社は、お客さんにスーパーマリオのキャラクターのコスプレ衣装を貸与して、レンタルカートに乗せてたようです。

これについて、任天堂は、マリオ、ルイージヨッシークッパの4キャラのコスプレ衣装を客に貸与する行為を指し、任天堂著作権侵害に該当すると主張して、その貸与行為の差し止めを求めました。

この任天堂の主張に対して、MARI社は、コスプレ衣装における表現は、ただのオーバーオール等の洋服であり、恐竜や怪獣の表現としてありふれた創作性のないものであるため、マリオキャラクターの表現の本質的特徴を直接感得させるものではなく、著作権侵害にはあたらないと反論しました。

さぁ、これを踏まえて裁判所がどう判断したか。

どういうわけか、任天堂が別件で主張していた、店舗内でのマリオ人形の掲示や、従業員ユニフォームでのマリオキャラクターの使用についての不正競争防止法違反に基づく差止請求とまとめる形で、「営業活動において〔…〕各コスチュームを貸与という形で使用すること」を禁じ、著作権侵害にあたるかどうかは、「(不競法に基づき差止を認めたんだから)判断するに及ばない」としたのである。

しかし、不正競争防止法に基づき認められる表現行為の禁止範囲と、著作権法に基づき認められる表現行為の禁止範囲とでは、はっきり言って禁止の範囲がまったくと言っていいほど異なる。それなのに「不競法で禁止させたんだから、著作権のことはもういいでしょう?」という態度は、これは任天堂としてもMARI社としても、裁判所にはぐらかされた格好になっているのではないか。

裁判所はマリオキャラクターの周知性を認めており、不正競争防止法2条1項1号に基づく検討をしたようである。するとここで認められる禁止の範囲は、MARI社によるマリオキャラクターの使用が商品等表示としての使用であって、その使用行為が任天堂の営業と混同される(使用許諾を受けているのだろうとか)範囲に留まる。当時のMARI社のサービスは、広告から店内装飾からどうもマリオ一色だったようだから、その営業態様の中でマリオキャラクターのコスプレ衣装を貸与する行為が、この禁止の範囲に入るという理屈なのだろうと考えられる。

でももし、MARI社の広告や店内装飾で殊更にマリオだけがアピールされることなく、提供されるマリオキャラクターのコスプレ衣装が、他のさまざまなゲーム、アニメキャラのコスプレ衣装の、その中のひとつのオプションメニューに過ぎなかった場合はどうだろうか。おそらく、不正競争防止法に基づき認められる禁止の範囲からははみ出してくるのではないか。著作権侵害にあたると判断されれば、こうしたオプションメニュー的なコスプレ衣装の貸与も禁止されたはずなのに。

うがった見方をすれば、スーパーマリオ一辺倒じゃなくて、『色んなキャラのコスプレができるレンタルカート』に業態を転換をすれば、まぁ許容範囲だぞ」と裁判所が示唆を与えたようにも思えるのである。

しかしながら、MARI社はこの地裁判決を不服として控訴しているようである。これ、どうなんでしょう、悪手なんじゃないの? 裁判沙汰も含めて、MARI社もずいぶんと名を売ったんだから、マリオキャラクターに固執せずに、つつましくコスプレレンタルカート事業として新たなスタートを切った方がよかったんじゃないの、と思った次第である。

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「任天堂VSマリカー」東京地裁判決について(1)「マリカー」は誰の商品等表示?

任天堂が、スーパーマリオのキャラクター達を使ったレンタルカート業者その名も「マリカー」(現・MARIモビリティ開発)を、不正競争防止法違反ならびに著作権法違反で訴えていた裁判、通称マリカー事件」。その地裁判決が先日出まして、判決文(PDF)を読みました。その感想文です。

全体的には、任天堂側が丁寧に色んな証拠を収集し、それらを積み重ねて説得力のある主張をしていましたね。さすがだな、と思いました。京都の会社なのに何回も東京出張してマリカーを訪れてスパイしたりしたんだろうな。結果、日本(人向けの媒体)では「マリカー」の営業表示を禁止、マリオキャラクターを使った広告宣伝物(広告動画、従業員ユニフォーム等)も禁止、約1,000万円の損害賠償も認めています。ほぼ勝訴の形となったのは納得の結末です。

 

そのうえで、2点気になったこと。

 

(1)「マリカー」の表示を、割とさらっと「任天堂周知かつ著名な商品等表示」と認めている。

 

マリカー」というのは、「マリオカート」のユーザーが使用している「愛称」であって、任天堂自身が主体的に使用する商品等表示ではないですよね。こういう類の表示が「任天堂商品等表示」(条文でいうところの「他人の商品等表示」)という要件を満たすといえるのだろうか。ずいぶん、さらっと認めてるな!と思った次第です。ユーザーが勝手に言っている愛称を「自分の商品等表示です」と主張するのは、実は当事者としては割と慎重になるポイントだと思う。

まぁ「マリオカート」→「マリカー」は、略語の成り立ち方として一般的であるうえに、需要者において「マリオカート」=「マリカー」という認識が広くなされているのだから、「他人の商品等表示である『マリオカート』と類似の商品等表示である『マリカー』」という理論構成ならしっくりくるかもしれない。しかし、これが例えば、「マリオカート」が「赤ひげモーターズ」の愛称で親しまれていたとしたら、それを任天堂の周知な商品等表示と認めていいのだろうか?

 

ちなみに、ブランドオーナーの実務上、ユーザーが勝手に使い出した愛称というのは、得てして商標出願まで気が回らないか、少なくとも後手になりがちである。実際、任天堂が「マリカー」の商標登録をMARI社に先んじられてしまったこともその表れでしょう(余談だが、任天堂は「ファミリーコンピュータ」の愛称であるファミコン」の商標もシャープに先に登録されている――拙著『それどんな商品だよ!―本当にあったへんな商標』「ファミコンウォーズ勃発?」p.143より)

エンタメ業界の商品は、二次創作しかり、ユーザーがブランドを拡張させるという側面があるので、ユーザー発の愛称が市民権を得ることは少なくない。もっとも最近は、というかおそらく「ポケモン、ゲットだぜ!」以降は、ブランドオーナー側が主体的に「愛称」を考案し(もちろん商標出願もして)、広告等で使用するケースも多いですが(「パズドラ」、「モンスト」なんかはそうですね)

商標登録による権利化が抜けがちな「愛称」が、「様々なメディア〔…〕や多数のユーザーにおいて広く一般に使用されている」(判決文より)ことを理由に、「他人(自分)の商品等表示」として不競法による保護を受けられる余地があるのだとすれば、ブランドオーナーとしては朗報だといえよう。

 

長くなっちゃった。二つ目の感想は次回

それどんな商品だよ! 本当にあったへんな商標 (文庫ぎんが堂)
友利昴 和田ラヂヲ
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『よくわかる音楽著作権ビジネス』安藤和宏教授インタビュー

ロングセラー『よくわかる音楽著作権ビジネス』などの著者がある、東洋大学法学部教授の安藤和宏さんのインタビューをしてきました。

実は安藤さんの『よくわかる音楽著作権ビジネス』は、私が知財の仕事に興味を持つきっかけになった本でした。一時期、私は音楽を使った事業を手掛けていたのですが、著作権のことや音楽業界の商慣習がほとんど分かっていなかったので、本屋で見かけて買ったこの本を片手に、音楽出版社と権利処理の交渉をしたり、(多くの方の印象通り)いちいち硬直的なJASRACとやり取りしたりしていたことを思い出します。

余談ですが、ある時JASRACから資料を郵送してもらう必要が生じ、電話口で自分の名前の漢字を説明するくだりで、友利昴の「昴」を説明するのに、音楽著作権管理事業者である同法人へのリップサービスのつもりで、JASRAC管理楽曲で言いますと、谷村新司の『昴』です!」と説明したところ、鼻で笑われたので顔が真っ赤になりました。一生忘れないからな!

 

それはさておき。

 

今自分が、法律そのものではなく、産業界の実務としての法律との付き合い方、距離の取り方を追及しているのは、現場にコミットし続けて、現場のアーティストのために不合理な慣習と戦い続けている安藤さんの姿勢に共感したからだと思いますね。

取材でも「現場のために戦う姿勢」を存分に感じることができました。戦い過ぎて編集でカットされた表現も多々ありましたが……非常に刺激&勉強になりました。『発明THE INVENTION』2018年9月号に収録です。


よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 5th Edition
安藤 和宏
4845631415

よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 5th Edition
安藤 和宏
4845631423

昴-すばる-
谷村新司
B000666TH6

JUGEMブログからはてなブログへの移転

時の流れの速さに震えるより他ないのですが、10年間もJUGEMでブログ記事を書いていたんです。10年とは言っても、ほぼ月刊以下の投稿状況だったので達成感など微塵もありませんが。ただただ10年という時の流れに狂おしい気持ちになるだけです。

JUGEMでは記事をあまり書く気にならなくなったどころか、自分で読み返す気にすらならなかったのは理由があります。それもこれも広告が出過ぎだからなんですよ。僕も大人なのでね、無料ブログサービスが広告収入によって成立していることは分かるんですよ。「広告ウザ過ぎ~」とかね、子どもじゃないんだから言いませんよ! だけど、スマホで閲覧するときに出てくる「す~っ」という動きをする広告だけはダメだ。間違ってクリックして表示された広告なんて誰が見ますか? す~っじゃないんだよお前は。あと一定期間記事が更新されないことを理由に広告が増えるシステムも解せない。更新してなくて誰も訪れないブログになぜ広告を増やす? ゴーストタウンにチラシを貼って回るようなものではないか? 意味がない。ポストにチラシだけが大量に押し込まれた空き家かこのブログは! といった感情に支配された結果、いつしか家主の足すら遠のいてしまったのだ。

それでもうどこか別のブログに移転しようと思ったのである。だからといって広告なしの有料ブログを契約するほどのやる気も、色んなブログを比較して吟味するほどの暇もないので、なんとなくはてなブログにしたのである。す~っとなる広告があるのかどうかすら確認してない。ないことを祈る。

そういった次第なので、特に心機一転ということでもなく、ほぼ宣伝と備忘録に費やします。なお、昔の記事を自分で読み返したら、「何言ってるんだコイツは」としか言いようのない記事が過半数を占めたため、記事を間引いて整理しました。自分で何を書いたかなんて忘れているので、改めて読み返すとその内容に愕然とすることが多い。しかし、そう思うのは自分が成長したことの証であると、めちゃめちゃポジティブに解釈しようと思います。

ペパボの教科書 インターネットサービスではじめる、あたらしい自分
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