ブログブログ by 友利昴

自分に関する記事を書いたものです。

【検証】知財トラブル報道で「法的な見解は?」と問われた有識者は、どっちの味方をしているのか?

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ニュースなんかで、社会問題になっている事象や、不祥事を起こした人が取り上げられたとき、ゲストやVTRで弁護士が登場して「〇〇法に違反する可能性がある」「〇〇万円以下の罰金刑になるおそれがある」などと解説することがある。

それを見るたびに思うのだ。

「おい、弁護士だったら弁護しろや!犯罪の嫌疑をかけられている人を弁護するのがアンタらの本分やろがい!!」と。

そうなのである。どうも嫌疑されている人に対して「いや、この人は叩かれてますけど、こういう法律上の救済事由があるから何も悪くないんですよ」などとメディアで庇ってくれる弁護士はほとんどいない、ような気がするのだ。

そんな素朴な疑問からお送りする今回の記事は、「知財系 もっと Advent Calendar 2020」の提供でお届けしています。

 《目次》

  • 1.なんで先生はそっちの肩を持つんですかね?
  • 2.識者はどっちの味方をしている?—集計結果と分析
  • 3.個々のコメント傾向(齋藤理央弁護士と福井健策弁護士)
  • 4.まとめ―有識者の「主義・思想」をどう受け止めるか
  • 5.分析生データ

 

1.なんで先生はそっちの肩を持つんですかね?

知財トラブルではどうだろう。権利侵害、無断使用、パクったパクられた。そんな事件や騒動がメディアで取り上げられ知的財産権の問題に詳しい〇〇さんの見解は?」などという切り口で弁護士や弁理士などが取材に応じることがある。

知財トラブルでも警察が動く刑事事件になることもあるが、これは違法性が明らかな典型的な模倣品事件が多く*1、わざわざ専門家の見解が問われる機会は少ない。

議論の的になりがちなのは、侵害被害者(権利者)と権利侵害者(利用者)の当事者が直接争う事件だ。この場合、当事者は警察・検察と被疑者という関係ではないので、どちらの弁護をしてもいいはずだ。だがメディアに登場する知財の専門家は、だいたいどちらかの立場に立ってコメントしている。ここで疑問が生じる。「なぜ、そっちの肩を持っているのだ?」と。

優秀な専門家であれば、やろうと思えばどちらの弁護もできるはずだ。特に弁護士はそれが仕事である。たとえ明らかに違法でとても無罪とは言えなくとも、違法性を減じる方向でコメントすることだってできるだろう。

それなのにどちらか一方の肩を持っているとすれば、その理由は、

(1)優秀じゃないから一面的なものの見方しかできない。
(2)自分の主義・思想を反映させている。

のどちらかではないだろうか。コイツは(1)だ!と言うと怒られそうだから、だいたいは(2)であろうと仮説する。

気になったので、簡易的にではあるが、検証を試みてみた。現在も掲載されている、過去5年間の非典型的な知財トラブルを報じたウェブ上のニュースで、弁護士、弁理士、法学者などの知財有識者が事件に関する法的見解を述べた記事をピックアップしてみたのだ。漏れがあるかもしれないが、80件集まったところでヨシとした。細かい抽出条件などは脚注*2を見ればよろしい。

これらの記事の専門家コメントを「侵害寄り意見」「非侵害寄り意見」「判断留保」に分別して、何らかの傾向や特徴が見られるかどうかを探ってやろうという寸法である。

私は冒頭述べた通り、「侵害寄り意見」が多いのではないかと予想した。なぜならば、少なくとも形式的・表面的に違法となる要件を満たしていれば「違法の可能性がある」とは言えるが、違法性を退けるには「実はこういう事情があって」*3という、表面には出てきにくい背景を知らなければ(調べなければ)ならない場合が多いと思ったからである。パッと見で違法なものを「いや、実は適法」と言うには労力が必要なのである*4

さて、結果はどうなるだろうか。以下で見ていこう。

*1:ハイスコアガール著作権事件、チケットキャンプ(ジャニーズ通信)商標権事件など、たまにかなり微妙な事案もあるのだが。いずれも不起訴処分で終わっている。興味ある人は各自検索だ。

*2:本記事企画「知財系Advent Calendar」を主催している知財ニュースのキュレーションサイト「パテントサロン」のバックナンバーを参考に事件を抽出し、主にパテントサロン上のリンクを手掛かりに探した。加えてgoogle検索や手元の報道資料なども補強的に用いた。個人ブログや事務所のコラムなどは対象外とし、マスメディアとして機能している媒体におけるコメントを選んだ。メディア記事ではあるものの中には事実上のコラム状態になっているものもあり、特に「Yahoo!ニュース個人」の栗原潔弁理士の記事は悩んだが、今回は対象に入れた。ただし典型的なマスメディアであるテレビ局や新聞社のネット記事はリンク切れや有料記事が多くてほとんど参照できず、ネットメディアが中心になっている点にご留意頂きたい。平野泰弘弁理士、安藤和宏教授など、テレビ、新聞の取材対応が多い専門家もいるが、ほとんどフォローできなかった。なお、事件当事者の代理人など、当事者・関係者としてのコメントは対象外とした。

*3:実は権利に瑕疵や無効事由があって、とか、周辺技術や需要者の認識、既知の事例、過去の裁判例を踏まえると権利の射程が狭くて、とか。妥当な経緯などの個別事情とか。

*4:私も多少の経験があるが、メディアの取材はとにかく突然電話がかかってきて(出版社経由とかで)、いきなり質問されるのである。答えられそうな質問だったとしても、「ちょ、ちょっと待って。1時間後にもう一回かけてください」などと言って、急いで情報を整理して見解をまとめて答えているのである。情報ソースは既存の報道や公知情報(公開特許情報など)で、それ以外の特別な情報を記者が教えてくれることもあまりないと思う。したがって、労力をかけて慎重に検討して回答するというプロセスは取りにくい。

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【書評】岩田宇伯『コロナマニア』(パブリブ)—君はブランドイメージの変質に耐えられるか?

『コロナマニア』(著・岩田宇伯)を読んだのだが興味深かった。コロナビールトヨタのコロナ、コロナファンヒーターなどのように、商品名やブランド名、店名、地名、曲名、歌手名などなど、ウィルス以外の固有名詞の「コロナ」を収集して論じた本だ。

私のような凡人には今の3つくらいしか思い浮かばないが、本書ではなんと、全世界から918種もの「コロナ」を収集している。

南米などスペイン語圏で多い地名の「コロナ」UVERworld19(ジューク)などが歌ったが封印が心配される曲名の「コロナ」、コロナ禍で引退相次ぐキャバクラや風俗嬢の源氏名「コロナ」などアツいトピックが満載だが、自分は普段ブランドマネジメントや知的財産の仕事をすることが多いので、特に店舗、商号、商品などブランド名の「コロナ」特集にシビレてしまう。

昔の商標登録の記録から、「セフレ」や「ニート」といったブランドを立派な会社が大真面目に採用していたことが分かったりする。今じゃ到底使えない。もともとは良好な意味や語感の造語だったものが、新語・流行・外来・事件などによって急にネガティブな意味に転化することがあるのだ。

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参考:友利昴『それどんな商品だよ!本当にあったへんな商標』(イースト・プレス

言葉は生き物だ。使い方、使われ方によって権利の強さや価値が上がったり下がったりすることは織り込まなければならない。しかしブランドオーナーからすれば、自分の力がまったく及ばないところでブランドイメージがガラリと変質してしまうことは、恐怖でしかない。「コロナ」は今、まさに今、その典型例になってしまった。

だが、ブランド論において、このように外的要因によるブランドイメージの変質が事業活動にどのような影響を及ぼすのかを論じた資料は見たことがない。その点で、『コロナマニア』は貴重な文献である。

それにしても「コロナ」ブランドの多さは異常だ。本書によれば、日本の個人商店の「コロナ」には1960年代~80年代創業のものが多いと分析されている。トヨタの車種「コロナ」全盛期に符号するようだが、これはトヨタの影響なのか。それともトヨタコロナ含めて何か大きなムーブメントの渦中にあったのか……。

また、店舗名や商号では、地域分布では有意に愛知県が多いのだそうだ。じゃあやっぱりトヨタが影響している……? なお、1970年大阪万博の「太陽の塔」の影響(太陽コロナの連想)を示唆する記述もあった。

ちなみに、公共の場で「俺コロナ」と名乗って逮捕された人が多いのもダントツで愛知県だという話はよく知られているが、何か関係があるのだろうか?そして本書では、なんと全国の「俺コロナ」事件簿の概要までまとめられている。これもまた歴史に残る資料である。

コロナマニア

コロナウィルス騒動によって「コロナ」ブランドが受けた影響でストレートに心配されるのは風評被害だ。例えば、コロナビールが生産停止、38%の米国人が「もう買わない」と意思表示したというニュースが広まったことが思い出される。これについて、本書では丁寧に検証しフェイクニュースの類であると解説し、むしろデータからは、風評が売り上げに与えた影響も限定的であることを示している。

また長野県の味蔵コロナ食堂、大阪コロナホテルにはインタビューを敢行し、またコロナワールドやフードショップコロナの訪問レポートも記されている。それらによれば、各店とも一時的には風評被害、具体的には揶揄するようなネットの書き込みや無言電話などがあったとのことだが、そうした被害が顕在化すると、逆に応援のメッセージや来客が増え、結果的には、むしろ従業員の店名に対する誇りや、忠誠心が募っていく様子すらうかがえる。

エジプトやイスラエルでは、コロナ禍で売り上げが急増した「コロナ」ブランドもあるという。

もしかすると、外的要因によるブランドイメージの変質は、一時的には風評被害をもたらすとしても、中長期的には必ずしもマイナスにはならないのかもしれない。まぁ各「コロナ」ブランドとコロナウィルスが無関係なことは、考えるまでもなく明らかだから、言葉遊び以上の影響はないのかも。

地名や芸名含め、918種の「コロナ」ブランドの未来はそんなに暗くない!!そんな仮説を抱かせてくれる本でした。

岩田宇伯『コロナマニアーウイルス以外のコロナ一大コレクション』(パブリブ)

モーターファン『新型コロナのすべて』(三栄書房)

コロナ・エキストラ(コロナビール) ボトル 355ml×24本

 

商標「LADY GAGA」事件が与えた答え

LADY GAGA事件*1。私の好きな商標の裁判事件のひとつだ。簡単に言うと、レディー・ガガの本人事務所が、日本で「LADY GAGA」をCD等の商品分野で商標登録しようとしたところ、

LADY GAGAというのは有名な歌手名である。
→歌手名がCD等に表示された場合、それはCD等の品質(誰が歌唱した楽曲が収録されているかという内容)を表示するものでしかない。
→商品の品質を表示するに過ぎない商標は登録できないことになっている。
→したがって、LAGY GAGAは商標登録できない。

というロジックで、特許庁でも知財高裁でも商標登録が認められなかったという事件である。この判決以降、基本的に、歌手名やバンド名と分かるネーミングはCD等について商標登録できないことが確定している。

とはいうものの、審査官が歌手名と分からなければ商標登録できてしまうので、デビュー前や売れる前のバンド名なんかは今でも商標登録できる。結果として、歌手やバンド名は有名であればあるほど商標登録できないという状況になっている。

この事件について、最近発行された『商標・意匠・不正競争判例百選[第2版]』有斐閣では、評者の小泉直樹教授が「CD等の音楽コンテンツを選択する際、現実に歌手名等が商品選択の目印として機能していることから違和感も生じよう」と評したり、知人の鈴木康介弁理士も「バンドを作って著名になると登録できなくなってしまうのがなんとも釈然としません」とおっしゃるし、他の弁理士なども「みなさん〔…〕モヤモヤしていました」と言っているそうだから、そういう認識が多数派なんだろうと思う。

mbp-japan.com

だが、私はこの裁判納得しているのだ。みんながモヤモヤしてるのに自分だけ納得してるんだから、私が間違ってるのかもしれない。だから自分が納得したポイントを中心に、以下の通りもう一度整理してみたい。

*1:平25(行ケ)10158。

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友利昴『知財部という仕事』紹介

私の書く本は、基本的に、そのテーマに興味のある人であれば広く一般に読んでもらえるように書くことを心がけているんですが、この『知財部という仕事』は例外です。

企業で知財の仕事をしている人をターゲットに絞っている本です。めちゃめちゃ狭いよ。ここまでニッチな本が他にあるのだろうか?

内容は、知財部で働く人々が、周囲のステークホルダーと、良好な関係を維持しながら仕事で成果を出すにはどうすればいいのか?を、100のケーススタディ形式で論じるものになっています。

ここでいうステークホルダーというのは、例えば、上司や部下、社内の開発部門や事業部門、経営者、共同開発先や業務委託先、企画会社やデザイナー、競合他社、模倣業者、特許事務所や法律事務所といった、仕事上のあらゆる関係者です。

四の五の言うより内容を紹介しましょう。

知財部という仕事

知財担当者なら震える事態ですね。

知財部という仕事

人が考えていることだもの。同じ時期に他人が同じことを考えてることもあるよ。

知財部という仕事

無断使用してしまった~。終わりだ~。社会的に抹殺される~。からのリカバー術とは?

知財部という仕事

いつの時代も、「パクられ妄想」に憑りつかれてとんでもない行動に出る輩がいます。

知財部という仕事

発明ありませんか~?紙に書いて提出してください~?で発掘できるほど、発明発掘は甘くない!

知財部という仕事

ゴミみたいな知的財産権、同業者にはバレてます!

知財部という仕事

「リスクを取れ!」とカッコつけて、トラブルに突っ込んで責任を取らない人、階段から落ちてくれ。

知財部という仕事

8千円くらいで出願できると思われているぞ!

知財部という仕事

「バレなきゃいいじゃん」が一定の支持を集めるのは、実際にバレにくい権利侵害があるから。しかし……?

知財部という仕事

公開公報になって初めて気づくとは!ナメられてるぞ!

知財部という仕事

「先生、これって侵害になりますか?」としか言わないとこうなる。

知財部という仕事 産学連携 事業化断念

大学教授陣と、会社の研究者、事業担当者のテンションが違い過ぎる……!

知財部という仕事 下請法

出願しちゃえよ!創作者だろ!

知財部という仕事 法務部 契約交渉 同席

契約交渉話がこじれるのは、本当は誰のせい?

泥臭いですねぇ。でもこういった泥臭い仕事こそ、知財部の仕事の本懐だと筆者は考えます。もともとは、『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)という知財専門誌の知財部さん、いらっしゃ~い。―企業知財担当者のためのコミュニケーション術―」(川守田昴という別名義での連載)という連載を、加筆修正のうえ一冊にまとめたものです。

この連載、スタートが2010年1月号ですから、気付けば10年以上続いてしまった。なんと7月20日発売号の週刊少年ジャンプで8年半の連載を経て最終回を迎えることで話題の『ハイキュー!!』より長い!(まぁ実際こっちは月刊連載なので全然違うけど)

広く一般に読んで欲しいという本では全然ありませんが、知財担当者を置いている企業には一社一冊あっても損はない内容になっていると思います。

また、特許・法律事務所などの知財サービスの業界にとっては、普段はなかなかうかがい知ることの難しい、クライアントの論理、クライアントの事情が推し量れる貴重な資料になるのではないでしょうか?

友利昴『知財部という仕事』(発明推進協会)

友利昴 知財部という仕事

知財部という仕事』目次はこちら↓↓↓

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