ブログブログ by 友利昴

自分に関する記事を書いたものです。

【書評】岩田宇伯『コロナマニア』(パブリブ)—君はブランドイメージの変質に耐えられるか?

『コロナマニア』(著・岩田宇伯)を読んだのだが興味深かった。コロナビールトヨタのコロナ、コロナファンヒーターなどのように、商品名やブランド名、店名、地名、曲名、歌手名などなど、ウィルス以外の固有名詞の「コロナ」を収集して論じた本だ。

私のような凡人には今の3つくらいしか思い浮かばないが、本書ではなんと、全世界から918種もの「コロナ」を収集している。

南米などスペイン語圏で多い地名の「コロナ」UVERworld19(ジューク)などが歌ったが封印が心配される曲名の「コロナ」、コロナ禍で引退相次ぐキャバクラや風俗嬢の源氏名「コロナ」などアツいトピックが満載だが、自分は普段ブランドマネジメントや知的財産の仕事をすることが多いので、特に店舗、商号、商品などブランド名の「コロナ」特集にシビレてしまう。

昔の商標登録の記録から、「セフレ」や「ニート」といったブランドを立派な会社が大真面目に採用していたことが分かったりする。今じゃ到底使えない。もともとは良好な意味や語感の造語だったものが、新語・流行・外来・事件などによって急にネガティブな意味に転化することがあるのだ。

f:id:subarutomori:20201023225944j:plain

参考:友利昴『それどんな商品だよ!本当にあったへんな商標』(イースト・プレス

言葉は生き物だ。使い方、使われ方によって権利の強さや価値が上がったり下がったりすることは織り込まなければならない。しかしブランドオーナーからすれば、自分の力がまったく及ばないところでブランドイメージがガラリと変質してしまうことは、恐怖でしかない。「コロナ」は今、まさに今、その典型例になってしまった。

だが、ブランド論において、このように外的要因によるブランドイメージの変質が事業活動にどのような影響を及ぼすのかを論じた資料は見たことがない。その点で、『コロナマニア』は貴重な文献である。

それにしても「コロナ」ブランドの多さは異常だ。本書によれば、日本の個人商店の「コロナ」には1960年代~80年代創業のものが多いと分析されている。トヨタの車種「コロナ」全盛期に符号するようだが、これはトヨタの影響なのか。それともトヨタコロナ含めて何か大きなムーブメントの渦中にあったのか……。

また、店舗名や商号では、地域分布では有意に愛知県が多いのだそうだ。じゃあやっぱりトヨタが影響している……? なお、1970年大阪万博の「太陽の塔」の影響(太陽コロナの連想)を示唆する記述もあった。

ちなみに、公共の場で「俺コロナ」と名乗って逮捕された人が多いのもダントツで愛知県だという話はよく知られているが、何か関係があるのだろうか?そして本書では、なんと全国の「俺コロナ」事件簿の概要までまとめられている。これもまた歴史に残る資料である。

コロナマニア

コロナウィルス騒動によって「コロナ」ブランドが受けた影響でストレートに心配されるのは風評被害だ。例えば、コロナビールが生産停止、38%の米国人が「もう買わない」と意思表示したというニュースが広まったことが思い出される。これについて、本書では丁寧に検証しフェイクニュースの類であると解説し、むしろデータからは、風評が売り上げに与えた影響も限定的であることを示している。

また長野県の味蔵コロナ食堂、大阪コロナホテルにはインタビューを敢行し、またコロナワールドやフードショップコロナの訪問レポートも記されている。それらによれば、各店とも一時的には風評被害、具体的には揶揄するようなネットの書き込みや無言電話などがあったとのことだが、そうした被害が顕在化すると、逆に応援のメッセージや来客が増え、結果的には、むしろ従業員の店名に対する誇りや、忠誠心が募っていく様子すらうかがえる。

エジプトやイスラエルでは、コロナ禍で売り上げが急増した「コロナ」ブランドもあるという。

もしかすると、外的要因によるブランドイメージの変質は、一時的には風評被害をもたらすとしても、中長期的には必ずしもマイナスにはならないのかもしれない。まぁ各「コロナ」ブランドとコロナウィルスが無関係なことは、考えるまでもなく明らかだから、言葉遊び以上の影響はないのかも。

地名や芸名含め、918種の「コロナ」ブランドの未来はそんなに暗くない!!そんな仮説を抱かせてくれる本でした。

岩田宇伯『コロナマニアーウイルス以外のコロナ一大コレクション』(パブリブ)

モーターファン『新型コロナのすべて』(三栄書房)

コロナ・エキストラ(コロナビール) ボトル 355ml×24本