今日の記事は、法務人材が、法務業務をテーマに綴るリレーブログのイベント、「法務系 Advent Calendar 2019(裏)」の一環で書くものです。表もあります。それで標題の話です。
《目次》
1.2019年一番印象に残った企業不祥事
2019年、今年もたくさんの企業不祥事が世の中を騒がせました。
ただ、僕は人の不祥事にまったく興味がないため、どんな不祥事があったのかはほとんど忘れてしまいました。賄賂を断ると「テープ回してないやろな」と言ってキレる、AIで内定辞退率を算出した史上最年少の助役が、#カガクでネガイをカナエル会社 のハッシュタグをつけ忘れてPR漫画を投稿したのって今年でしたっけ。
でもひとつだけ。正直、世間的にはそこまで話題にのぼらなかったように思いますが、私の記憶に残っている件があります。
DMM.com*1で、法律知識のある社員が、社内の“雇い止め”の内容に法的な問題があると上司に指摘したところ、「そういう指摘を社内に広められると困る」という旨の指導をされ、さらに翌日、会社の会長から解雇を言い渡された、という出来事が2016年10月にあったそうなんです。その社員の方(復職しているとのこと)が慰謝料を求めて会社を提訴した、という報道が11月にあり、これについて会長から経緯説明のリリースもされました。
2.邪魔されず、嫌われずに経営層の法的リスクを指摘するには?
なんでこれが記憶に残っているかというと、僕ら企業法務畑の人間にとって大事な仕事のひとつが、まさにこの社員のように「組織が何か法的に問題のあることをしようとしていたら、それを是正することによって、組織を不祥事やトラブルから守る」ことだからです。
法務人の使命といってもよいわけですが、それを果たした結果、叱られて、あまつさえ解雇されたらたまらんな~と思ったわけです。
個別事案に対して「なんでこうなったんだろう」と外野が憶測*2するのは最小限に留めます。報道で受ける印象以外に、色んな事情もあるんでしょう。
しかし一般的な話として、経営者や上層部肝入りのプロジェクトについて法的問題を指摘するには勇気が要るし、指摘に邪魔が入ることも、指摘したところで反発を受けることもあるでしょう。
この事件をきっかけに、そうした数々ハードル乗り越えて、「自分も傷を負わず、経営者にも周りにもイヤな思いをさせず、組織の法的問題を指摘・是正するためのテクニック」について整理してみました。
3.社長をはだかのまま放り出すな
経営層に法的リスクを報告しようとすると、周りがなんやかんやで止めようとする。これはあるあるです。「これは社長の発案の企画で、決裁も通ってるから」「経営判断でやるって決まったことだから」などといって、当人にリスクの指摘すらさせてくれないことがあります。
彼らは「社長の現状の意向の通りに物事を進めることが、社長の本望であり、会社にとってベスト」だと妄信しているのです。そんな時には、こう切り返しましょう。
「社長は法的リスクについてご存じないんですよね? もし社長が知ったとしても同じようにGOサインを出すでしょうか? リスクを把握して頂いたうえで、再度、経営判断を仰ぐべきです」
「社長に法的リスクを知らせないまま、このプロジェクトでトラブルを起こしたら、社長に大恥をかかせることになりますよ」
周りが忖度してトップに適切な進言ができなかった結果、当人が一番恥をかく。これは「裸の王様」以来の真理です。実際、亀山会長も上記件のリリースで法律を知らなかったことを恥じ、謝ってますが、本来、経営者自身が細かい法律まで知る必要はないんです。周りがフォローすればよいのであって、それができなかったから、トップが裸で外を練り歩く羽目になるのです。
4.必ず改善策を提示する
事業部でも経営者でも、大抵のまともなビジネスパーソンは、違法なことをやろうと思って法を侵すことはありません。純粋に新しいこと、儲かりそうなことをやろうと思って、たまたまそれが法規制に引っかかっているに過ぎません。
そんな純粋モチベーションの相手に対して、「社長、あなたのやろうとしていることは、違法です!」ドーーン!!と指差してしまえば、それは当然気分悪いよ!
残念なことに、法務法曹系のなかには、違法性のあるものを見つけたら「それって違法ですよ」と指摘することしかできない者もいます。本人は助言のつもりかもしれませんが、これは嫌われます。クソリプです。会社でやると冷遇されるおそれもあります。
だいたい、悪気がなく法規制に引っかかってる程度の話で、法務にそれなりのスキルがあれば、スキーム全体をひっくり返さなきゃならないことなんてほとんどありません。「今のままだと危ないですが、このスキームをこう直せばリスクはかなり低減できます」という話をするのは簡単なはずです。それを添えてこその法的助言ではないでしょうか。
5.むしろドヤ顔をする
とはいえ、社長に「事業のここをこう直して下さい」と進言するのは畏れ多い、と恐縮してしまうのが正常な思考ではないでしょうか。その結果、「今さらで大変申し訳ないのですが……」などと平身低頭で法的リスクの説明をする羽目になってしまいます。
しかし、相手が社長とはいえ、法的リスクを指摘する側が下手に出過ぎると、説得力はどうしても落ちます。物分かりのいい社長ならいいですが、「ムムッ!なんとかならんのか!」とスゴまれた挙げ句、雰囲気に呑まれて引き下がってしまっては、全てが水の泡です。
なぜ下手に出てしまうのか。それは、おそらく無意識に「社長の思い描いていた事業を妨げることで、社長や会社に迷惑をかけてしまう」と思っているからです。その点、不祥事を止めようとしない取り巻きと所詮は同じ思考なんだよ。
ここは発想を転換して、「俺の進言のおかげで会社は不祥事から救われます」、「俺のおかげで社長は恥をかかずに済みます」というテンションで臨みましょう。いや、実際そうは口に出さないでいいんですが(というか出さないでください)、そのくらいの堂々たる気持ちで進言しましょう。実際、不祥事を未然に防止したという意味で感謝して欲しいくらいですし、できた経営者なら、きっと評価してくれるはずです。
いかがでしょうか。
1.「王様は裸だ」と取り巻きに気付かせ、
2.必ず改善策も用意し、
3.それをドヤ顔で進言する。
この3点を意識して、法務パーソンとしての役割を目いっぱい果たしてみませんか。
私は、企業法務の価値のひとつには「いかに自分の組織を守れるか」ということがあると思ってるんですね。法的リスクの評価や講釈は、別に頼めば外部の弁護士などでもやってくれますがー。一方、社内で進行しているリスクを察知するのは、組織にいてこそできることです。
また、そのリスクを上手に・円滑に低減することに責任を負うのも、組織にいる人間です。他人はなかなかそこまでしてくれないですから。そして、その責任を果たすには、勇気も要りますが、勇気だけでなく、処世術的な、またはメンタルコントロール的なテクニックも要るというお話でした。
にしても法務系 Advent Calendar 2019はなかなか読みごたえありますね。前回はcaracalooさん、次回は弁護士・弁理士の北岡弘章さんです!
《参考文献》
*1:法務に友人がいるんですが、なぜかネタしてしまうことが多くてごめん!ちなみに前は、FANZAで販売されていた全年齢同人ゲーム『ナツイロセールトリム』が「作品内にオリンピックに関連する語句が含まれている」という理由で販売停止になった件で、なんだその規約は!と言いました……って蒸し返すな。
*2:亀山のリリースによれば、「雇い止め」の指摘は、亀山が事業責任者を破格の条件で直接採用する「亀チョク方式」という特殊な雇用形式のもとで行われた「アフリカ事業」を対象としたものとのこと。一方この時期、アフリカ事業とは別の「亀チョク方式」の事象部責任者の退職の有効性を巡って係争が起きており、その訴訟対象の社員の不正行為もあったことも訴訟で言及されている(平成27(ワ)1730号 地位確認等請求事件)。「亀チョク方式」雇用についてはピリピリしていた情勢の時期であったことが伺える。