ブログブログ by 友利昴

自分に関する記事を書いたものです。

東京五輪に興味のない人必見!五輪期間中に観るべき映画ベスト5

緊急事態宣言という異常事態下で開催されることになった2020年東京オリンピック。解放的な雰囲気にのまれて世間の外出自粛ムードが減じていることに不安を感じ、なおも「五輪やってる場合か、ステイホームだろうが!」と思われるむきもあるでしょう。それに、そもそも「オリンピックに興味がない人」だって、世の中には多いのです。そんな方々は、選手の活躍や世の中の盛り上がりが気になりつつも、五輪の話題ばかりのニュースにうんざりしているのでは!?

そんな皆さんにおすすめしたい五輪期間中の過ごし方があります。それは、オリンピックを想起させるものの、オリンピックそのものを題材にしているわけではない名作映画を鑑賞することです。

勘違いしないでほしいのは、例えば市川崑監督の『東京オリンピック』に代表される、五輪公式ドキュメンタリーの類は対象外ということです。今、そんなものを観るくらいだったら、本番の試合を観ればいい。

そうではなく、オリンピックを想起させるが、主題は別のところにある名作。いわば、「アンブッシュマーケティングムービー」をご紹介したいのであります。

「社会を巻き込むオリンピックの空気感は無視できないが、オリンピックにどっぷり浸かりたくはない……」。そんなワガママなあなたにぴったりの、珠玉の名作五選をお届けしよう。

第5位『AKIRA』(監督:大友克洋)1988年
すみません。本当はこれが第1位でいいんですが、ベタ中のベタなのでこの位置で。

ベタ過ぎて、「中止だ中止」「さんをつけろよデコ助野郎」、あと「金田のバイクのシーン」がインターネットミームとして独り歩きしているのは知っての通り。

特に、東京五輪の延期(中止)を予言したと言われる「中止だ中止」の看板のシーンは近時あまりにも有名になり、2020年、2021年には、東京五輪反対派のアイコンとして多用されるにまで至っている。

AKIRA中止だ中止

AKIRA』(1988)

しかし、これらのキーワードを使いこなしただけで、映画を観た気になっているデコ助野郎が大勢いるのが腹立たしい。ぜひ本編を観て頂きたいのである。

本作とオリンピックの関係だが、2020年に五輪開催が予定されている(が、政情不安から開催に理解が得られていない)近未来の「ネオ東京」が舞台というだけで、物語にはオリンピックは直接関係しない(クライマックスの舞台は競技場)

謎解きをするように何度も観返したくなる、説明を排した壮大なSFストーリーや、今観ても他に似た作品を探せない斬新な演出は、ここで今さら語らずとも、多くの人が認める通り。リアル東京五輪開催期間中の、今、鑑賞してこそ、その壮大な世界観との奇妙なシンクロ感を味わえるに違いない。

なお「金田のバイクのシーン」は、本物の2020年東京五輪の開会式の演出に使用される予定があったが、演出家のMIKIKO電通の圧力により降板させられたことでお蔵入りになったことを週刊文春がすっぱ抜いている

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【書評】柴大介『IOCファミリーによるオリンピック商標の違法ライセンス問題を考える』(イマジン出版)—問題視すべきは違法ライセンス自体なのか

IOCファミリーによるオリンピック商標の違法ライセンス問題を考える』。著者の柴大介さんからご恵贈頂いた。帯にはこうある。

「オリンピックに対する思考停止が、スポンサーメディアの沈黙が、商標制度の破壊を招き、日本語文化の劣化を招く」

なんだかすごいことになっている。内容は、商標法の中でもかなりマニアックな論点を掘り下げている。

IOCファミリーによるオリンピック商標の違法ライセンス問題を考える

実は、柴さんは何度か私が登壇したセミナーなどに足をお運び下さったことがあり、2、3回お会いしたことがある。私が日本弁理士会という組織からの依頼で「オリンピックのアンブッシュマーケティング規制の法的ポジションと実務上の対応」という研修の講師をやった時の柴さんの感想がすごくて、「友利さんはいいが他の連中は何だ!」といった感じで盛大にキレておられた。あれには参った。研修は収録されていて、後にeラーニング教材にもなったそうだが、そのくだりはカットになったと聞いた。

それはさておき本書である。

《目次》

  • 1.違法ライセンスとは何か?~怒りのフリージャズ~
  • 2.責めるべきは「違法ライセンス」か~菊花紋章と比較せよ~
  • 3.審査基準を覆せ~梅五輪へのエール~

 

1.違法ライセンスとは何か?~怒りのフリージャズ~

本書は、IOC以下、JOC組織委員会IOCファミリー)の知財活動に対する批判本である。開催都市契約、ブランド保護基準、アンブッシュマーケティング規制の在り方、商標出願方針など、批判対象は多岐にわたり、果てはマスコミ批判、政府批判、特許庁批判、知財専門家批判と、批判の対象はどんどんスケールアウトしている。

あまりにも多岐にわたり過ぎている感はあるが、この怒りのフリージャズを奏でるかのような筆致が、著者の味であろう。

著者の批判の要部を捉えれば、それはタイトルにもなっている「違法ライセンス問題」である。知っての通り、IOCファミリーは、多くのスポンサーやライセンシーに、広告やグッズなどにおいて五輪マークやエンブレムなどを使わせており、その見返りとしてスポンサー料やライセンス料を徴収している。そのことが「違法」だというのである。

どういうことか。

五輪マークなどの商標は、特許庁による商標登録の審査の基準を示した「審査基準」において、「著名な非営利公益事業を表す標章」(4条1項6号)として例示されている。これに該当するとされた商標は、一定程度の特別な保護*1が与えられる

その反面、こうした商標権については、権利者による譲渡やライセンスが禁止されているのだ(24条の2の2項・3項/30条・31条の但し書)。※もっとも、2019年施行の法改正によって、通常使用権の許諾(一般的なライセンス)は可能になった。

したがって、IOCファミリーが、オリンピック関連の商標を、スポンサーやライセンシーにライセンスしているのは、(少なくとも2019年以前のライセンスについては)この禁止条項に違反している。すなわち違法であり、ライセンス自体も無効であるという指摘である。

実は私は本書の指摘に全面賛成というわけではないのだが、この主要な指摘については、確かにその通りだと思う。IOCファミリーは4条1項6号の特別な保護による恩恵を受けておきながら、それと引き換えに課せられた法律上の禁止事項を無視して、大規模なライセンスビジネスを行っているのである。

もっとも、著者が嘆くように、この「違法状態」は、世間一般はもちろん、知財関係者の間でもさほどシリアスに受け止められなかった。本書でもレポートされているが、国会で追及する議員も出たが、ピンとこなかった人が多かったようである。それはやはり、確かに違法状態ではあるものの、被害者が存在しないからだろう。

著者は、ライセンスが無効である以上、スポンサーやライセンシーは商標権侵害を犯していることになると論じる。しかし権利者であるIOCファミリーに権利不行使の意思があることは明白だから、誰もその侵害の被害を受けてはいないのである。

それに、本来は、事業者の自由な意思に基づいて行われてよいはずのライセンスを、商標法が規制していること自体がヘンだ、という感想もあるだろう。

*1:商標権がなくても、第三者の同一・類似商標の登録を阻止することができ、後述するように、その類似範囲は通常よりも広い(つまりそこまで似ていない他人の商標の登録も阻止できる)

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【感想】Re就活 vs リシュ活 商標権侵害事件第1審判決(大阪地裁)《追記アリ》

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間違えるだろうか?
左「Re就活」ウェブサイト、右「リシュ活」ウェブサイト


ちょっと長らく頭の片隅で気にしていた裁判の判決が、立て続けに出たのである。色々やることがあって忙しいんだけど、気になって読んでしまった。

ひとつは「Re就活」(学情)vs「リシュ活」(履修履歴活用コンソーシアム)の商標権侵害事件。どちらも就職支援サービスで、「Re就活」が「リシュ活」を商標権侵害であるとして、使用差止と1億円の損害賠償金の支払いを求めた事件だ。大阪地裁は、侵害を認め、使用差止と44万円の支払いを命じた。被告「リシュ活」側が、判決文含めて経緯を公開している。「リシュ活」側は控訴しているとのことだ。

この事件の実質的な争点は2点だと思う。ひとつは「Re就活」と「リシュ活」が類似するのかどうか。もうひとつは、現実に両サービスの利用者が「Re就活」と「リシュ活」を混同するおそれがあるかどうかだ。検証してみよう。

 《目次》

  • 1.「Re就活」と「リシュ活」は類似するか
  • 2. 両サービスの利用者は「Re就活」と「リシュ活」を混同するおそれがあるか

 

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【検証】知財トラブル報道で「法的な見解は?」と問われた有識者は、どっちの味方をしているのか?

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ニュースなんかで、社会問題になっている事象や、不祥事を起こした人が取り上げられたとき、ゲストやVTRで弁護士が登場して「〇〇法に違反する可能性がある」「〇〇万円以下の罰金刑になるおそれがある」などと解説することがある。

それを見るたびに思うのだ。

「おい、弁護士だったら弁護しろや!犯罪の嫌疑をかけられている人を弁護するのがアンタらの本分やろがい!!」と。

そうなのである。どうも嫌疑されている人に対して「いや、この人は叩かれてますけど、こういう法律上の救済事由があるから何も悪くないんですよ」などとメディアで庇ってくれる弁護士はほとんどいない、ような気がするのだ。

そんな素朴な疑問からお送りする今回の記事は、「知財系 もっと Advent Calendar 2020」の提供でお届けしています。

 《目次》

  • 1.なんで先生はそっちの肩を持つんですかね?
  • 2.識者はどっちの味方をしている?—集計結果と分析
  • 3.個々のコメント傾向(齋藤理央弁護士と福井健策弁護士)
  • 4.まとめ―有識者の「主義・思想」をどう受け止めるか
  • 5.分析生データ

 

1.なんで先生はそっちの肩を持つんですかね?

知財トラブルではどうだろう。権利侵害、無断使用、パクったパクられた。そんな事件や騒動がメディアで取り上げられ知的財産権の問題に詳しい〇〇さんの見解は?」などという切り口で弁護士や弁理士などが取材に応じることがある。

知財トラブルでも警察が動く刑事事件になることもあるが、これは違法性が明らかな典型的な模倣品事件が多く*1、わざわざ専門家の見解が問われる機会は少ない。

議論の的になりがちなのは、侵害被害者(権利者)と権利侵害者(利用者)の当事者が直接争う事件だ。この場合、当事者は警察・検察と被疑者という関係ではないので、どちらの弁護をしてもいいはずだ。だがメディアに登場する知財の専門家は、だいたいどちらかの立場に立ってコメントしている。ここで疑問が生じる。「なぜ、そっちの肩を持っているのだ?」と。

優秀な専門家であれば、やろうと思えばどちらの弁護もできるはずだ。特に弁護士はそれが仕事である。たとえ明らかに違法でとても無罪とは言えなくとも、違法性を減じる方向でコメントすることだってできるだろう。

それなのにどちらか一方の肩を持っているとすれば、その理由は、

(1)優秀じゃないから一面的なものの見方しかできない。
(2)自分の主義・思想を反映させている。

のどちらかではないだろうか。コイツは(1)だ!と言うと怒られそうだから、だいたいは(2)であろうと仮説する。

気になったので、簡易的にではあるが、検証を試みてみた。現在も掲載されている、過去5年間の非典型的な知財トラブルを報じたウェブ上のニュースで、弁護士、弁理士、法学者などの知財有識者が事件に関する法的見解を述べた記事をピックアップしてみたのだ。漏れがあるかもしれないが、80件集まったところでヨシとした。細かい抽出条件などは脚注*2を見ればよろしい。

これらの記事の専門家コメントを「侵害寄り意見」「非侵害寄り意見」「判断留保」に分別して、何らかの傾向や特徴が見られるかどうかを探ってやろうという寸法である。

私は冒頭述べた通り、「侵害寄り意見」が多いのではないかと予想した。なぜならば、少なくとも形式的・表面的に違法となる要件を満たしていれば「違法の可能性がある」とは言えるが、違法性を退けるには「実はこういう事情があって」*3という、表面には出てきにくい背景を知らなければ(調べなければ)ならない場合が多いと思ったからである。パッと見で違法なものを「いや、実は適法」と言うには労力が必要なのである*4

さて、結果はどうなるだろうか。以下で見ていこう。

*1:ハイスコアガール著作権事件、チケットキャンプ(ジャニーズ通信)商標権事件など、たまにかなり微妙な事案もあるのだが。いずれも不起訴処分で終わっている。興味ある人は各自検索だ。

*2:本記事企画「知財系Advent Calendar」を主催している知財ニュースのキュレーションサイト「パテントサロン」のバックナンバーを参考に事件を抽出し、主にパテントサロン上のリンクを手掛かりに探した。加えてgoogle検索や手元の報道資料なども補強的に用いた。個人ブログや事務所のコラムなどは対象外とし、マスメディアとして機能している媒体におけるコメントを選んだ。メディア記事ではあるものの中には事実上のコラム状態になっているものもあり、特に「Yahoo!ニュース個人」の栗原潔弁理士の記事は悩んだが、今回は対象に入れた。ただし典型的なマスメディアであるテレビ局や新聞社のネット記事はリンク切れや有料記事が多くてほとんど参照できず、ネットメディアが中心になっている点にご留意頂きたい。平野泰弘弁理士、安藤和宏教授など、テレビ、新聞の取材対応が多い専門家もいるが、ほとんどフォローできなかった。なお、事件当事者の代理人など、当事者・関係者としてのコメントは対象外とした。

*3:実は権利に瑕疵や無効事由があって、とか、周辺技術や需要者の認識、既知の事例、過去の裁判例を踏まえると権利の射程が狭くて、とか。妥当な経緯などの個別事情とか。

*4:私も多少の経験があるが、メディアの取材はとにかく突然電話がかかってきて(出版社経由とかで)、いきなり質問されるのである。答えられそうな質問だったとしても、「ちょ、ちょっと待って。1時間後にもう一回かけてください」などと言って、急いで情報を整理して見解をまとめて答えているのである。情報ソースは既存の報道や公知情報(公開特許情報など)で、それ以外の特別な情報を記者が教えてくれることもあまりないと思う。したがって、労力をかけて慎重に検討して回答するというプロセスは取りにくい。

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