東京オリンピック大会組織委員会が、米歌手アリアナ・グランデに対して便乗商法(アンブッシュ・マーケティング)を仕掛けていたので記録しておきたい。
発端は、アリアナがInstagramに投稿した写真だ。自身の新曲「7 rings」にかけて、掌にタトゥーで「七輪」の漢字を彫ったということで、その写真である。可愛いと思う。投稿には「『七輪』は日本語で『小さいグリルキット』のことだ」などのツッコミが入ったりしたらしいが、それもまたご愛敬。
【Instagramより】
— アリアナ・グランデ JP公式 (@ariana_japan) 2019年1月30日
アリアナがまた日本語のタトゥーを追加!今度はなんと漢字で「七輪」😳
「みんなこれは私の手じゃないって思っているみたいだけど、本当に私の手よ🥺」とコメントしています。
「七つの指輪」を略して「七輪」かな🤔💭とても気に入っているよう💍#アリアナ pic.twitter.com/wR55jgu7FU
この投稿に便乗したのが東京オリンピック大会組織委員会である。前記インスタ投稿を転載したアリアナの日本版公式Twitter(上記)へ言及する形で、アリアナの投稿写真とほぼ同様の構図で、「五輪」の漢字を掌に書いた写真と共に、「『七輪』じゃなくて... 🤔🤔🤔」と投稿したのである(下記)。
「七輪」じゃなくて... 🤔🤔🤔#Tokyo2020@ArianaGrande @ariana_japan pic.twitter.com/JRtrz1aa6X
— Tokyo 2020 (@Tokyo2020jp) 2019年1月31日
これが成功かスベっているかはともかくとして、驚いたのは、この投稿をしたのが、スポンサー以外の事業者がオリンピックに便乗することを異様に嫌い、広告等での「オリンピックを想起させる文言の使用」すら規制するスタンスを採っている大会組織委自身だったということだ。彼らは有名歌手に便乗して、東京大会に注目を集めようとしているのだ。自分がやるアンブッシュ・マーケティングは良いということなんだろうな~。まぁ勝手な話ではある。
いや、別にこの件で組織委を「便乗だ!」と責めたいわけではない。むしろこれにより、合法なアンブッシュ・マーケティングは、組織委ですら悪意なく広報表現の一環として公開してしまうほど、クリーンでナチュラルな手法だということが示されていると言えよう。
余談だが、1964年の東京オリンピックでも、当時の組織委は他人がオリンピックへ便乗することを規制する一方、大会の広報活動にあたっては、阿波踊りなどの他のイベントに便乗した広報活動を展開していた。「宣伝会議」1963年12月号には、当時の組織委の広報部長自身の筆により、「金も使わず、少ない人数で、しかもオリンピック・ムードを盛り上げようという欲張ったメイ案」として「全国の郷土芸能祭に便乗して、オリンピックをPRする」と、堂々胸を張る様子が記されている。お祭り会場で東京大会のうちわを配ったりアドバルーンを上げたりしたようである。
他人のブランドやムーブメントに対する便乗は、十把一絡げに悪ではなく、法律や社内通念に照らして許容すべき正当な便乗商法もあるということだ。アリアナ・グランデと東京大会組織委のやり取りは正当な便乗商法だと思う。
そこでアリアナには、組織委のツイートに対するアンサーとして、オリンピック・シンボルにもう2つ輪を加えたマークを描いたタトゥーを増やしてもらい、「not five rings but seven rings!!!!」と投稿してほしいところだ。その時に組織委が「オリンピックに対する便乗商法にあたるので削除してください」と返信するかどうか、見ものである。